骨格や筋肉の偏りやねじれで症状が現れることも

口の周りの異常は全身の異常の結果
私は歯科医として、かみ合わせや顎関節症の治療を長年行ってきました。一般に、患者さんのかみ合わせを治すとなると、口周りのケアに終始するケースがほとんどでしょう。しかし私は、そうした治療法での完治は難しいと考えています。
なぜなら、口の周りに現れた異常は、全身に起こった異常の結果だと考えているからです。つまり、口の周りだけでなく、全身のバランスにも目を向ける必要があるのです。
体のバランスが崩れると、骨格や筋肉などに偏りやねじれが生じます。体はその偏り・ねじれをカバーしようとするので、無理な力が加わります。その状態を放置すれば、かみ合わせの悪化や顎関節症だけでなく、肩・首の頑固なこり、背中・腰・ひざの痛みなどの症状が現れます。
「速く歩けない」「歩くとすぐに疲れてしまう」など、歩行に変化が現れることもよくあります。さらに、不眠、頻尿、手足の冷え、原因不明の頭痛やめまい、吐き気、イライラなどの不快症状に悩まされることも少なくありません。
病院でいくら診てもらっても、原因が特定されず、これらの症状が消えない場合は、全身のバランスが悪くなっていないか、疑ってみましょう。
全身のバランスのカギは足の指のつけ根

人間の体のバランスを考えるとき、非常に重要となるものが「筋膜リレーション」という考え方です。
私たちの筋肉は、細い筋繊維が束になってできています。これをまとめて包んでいるのが筋膜です。そして、皮膚のすぐ下の皮下組織としてある浅筋膜や、さらに体の奥のほうにある深筋膜など、筋膜は何層も重なり合い、あらゆる筋膜がつながっています。筋膜リレーションとは、これらの全身的な連動です。
人体の筋膜リレーションを大別すると、
❶体を伸ばすときに働く「伸展系」
❷体を曲げるときに働く「屈曲系」
の2種類があります。私たち人間が、“極めて不安定な”直立2足歩行で生きていけるのは、こうした筋膜リレーションがしっかり機能しているおかげだと言えるでしょう。
そして、筋膜リレーションの「伸展系」と「屈曲系」は、ある1カ所で接合しています。どこだと思いますか? 実は、「足の指のつけ根」なのです。正確に言えば、足の指のつけ根に横向きに走っている「浅横中足靭帯」という部位です。
ですから、筋膜リレーションを機能させるため、つまり全身のバランスの悪さを解消するためには、「足の指のつけ根」をきちんとケアする必要があります。
「足の指のつけ根」をケアすると、伸びたり縮んだりと、まるでゴムのように働く筋膜リレーションが、正常に働くようになります。つまり、筋膜というゴムの片端をきちんと止めておくことで、筋膜が本来持ち合わせている機能を最大限使えるようにしてあげるというイメージです。
不快症状が改善し美容効果も!
では、足の指のつけ根をケアするコツをご紹介します。浅横中足靭帯は、足の指のつけ根の横全体に走っていますが、特に重要な「足の中指のつけ根」を重点的にもむことです。
私は、人間が全身のバランスを取るうえで、足の中指が最も重要な役割を果たしていると考えています。馬など奇蹄目の動物は、中指だけが蹄になり、他の指は退化しました。羊など偶蹄目の動物は、中指と薬指が蹄になりました。これらは、足の中指の重要性を物語っている事実です。人間も、例外ではありません。
具体的なもみ方は、イラストを参考にしてください。
たいていは、左足のほうが痛く感じるでしょう。それは、筋膜リレーションの構造が、らせん状であり大部分が左回りであることと、日本人に右利きが多く、体の左側にゆがみやねじれが現れやすいことが理由です。これを参考にして痛く感じるほうの足を重点的にもんでください。
こうして全身のバランスの悪さを根本から解消すれば、冒頭にお話ししたような不快症状は改善されていきます。さらに女性の患者さんからは、美容的な効果を得たという報告が相次いでいます。「左右差のあった目の大きさや高さが整った」「ゆがんでいた顔がまっすぐになった」「小顔になった」など、女性にとってはうれしい変化ばかりです。
これほど簡単で効率的に全身のバランスを整え、健康と美を手にできる方法はなかなかないと自負しています。ぜひとも試してみてください。
足の中指のもみ方

解説者のプロフィール

笠茂享久
1956年、北海道生まれ。81年、日本大学歯学部卒業。85年、日本大学歯学部大学院卒業、博士号取得。89年、東京・渋谷区に笠茂歯科医院を開院。99年、生体構造調律研究所を設立。口の中の機能の回復を通して、本来持っている全身の自然治癒能力を高める手助けをすることをモットーに、各専門誌や健康実用情報誌にも執筆多数。著書に『歯はいのち! 気持ちよく噛めて身体が楽になる整体入門』(文藝春秋社)がある。