
心身の健康を保つために血液は重要
東洋医学では、「血」が全身を巡って、肉体に栄養を供給したり、精神を安定させたりすると考えられています。生命現象のもとと言える「血」とは、血液に当たります。
血液の循環は、環境とのかかわりの中で、体のさまざまな機能を適切に調節するために大きな役割を果たしています。例えば、近年増えている低体温や、夏場でも厚手の靴下が手放せないような冷え症などは、血液循環の障害によるものです。
血液循環が悪いと、むくみや痛みが現れたり、皮膚に炎症などのトラブルが起こったり、便秘や下痢に悩まされたりもします。肉体的な面だけでなく、イライラや落ち込み、物忘れがひどくなるなど、精神的な面でも影響が出てきます。
心と体の健康を保つには、頭から足先までの血管を、血液がきちんと流れることがたいせつです。
全身の中で、特に血液循環が滞りやすいウイークポイントは脚の「ひざから下」です。立っていても、いすに腰かけているときも、ひざから下は常に地面に対して垂直です。あまり意識していないでしょうが、重力に逆らって、血液が脚にたまらないように、ひざから下の血管は常に緊張しているのです。
夏場、冷房で冷やされた空気は下に行くため、床に近いほど室温が低くなり、ますますひざから下の筋肉と血管を緊張させてしまいます。
全身の血液循環をよくするには、ひざから下の筋肉と血管をケアしてあげることが大事です。入浴時などには脚を伸ばし、「今日もご苦労様。ゆっくり休んで」と声をかけるようなイメージで、ふくらはぎの辺りをよくマッサージしてあげましょう。
自然の音を使って自然のリズムを取り戻す
さて、血液の流れをコントロールしているのは、自律神経です。
自律神経には、体を活動モードにする「交感神経」と休息モードにする「副交感神経」があります。一見、交感神経と副交感神経は対立していますが、実はそうではありません。この2つが、綱引きで釣り合っているときのようにバランスを取ることで、心身は置かれた状況に柔軟に対応できるのです。
例えば、私たちが立っているときは交感神経が優位になり、血圧が高くなって、手足の血管の収縮力が強くなります。
一方、体を横たえると、副交感神経が優位になり、血圧が下がって、手足の血管が広がって皮膚の温度が上がってきます。こうして熱を放出し、体の深部の温度を下げ、体を休ませて眠りに入るのです。
昼間に活動し、夜は休息するという自然のリズムの中では、交感神経と副交感神経が上手に綱引きしています。24時間周期で昼夜の交替がある地球環境に適応するため、私たちには体内の活動を時刻に合わせて調節するしくみ(体内時計という)が備わっているからです。
ところが、自然のリズムに反して深夜に活動する生活を続けると、交感神経ばかりが優位になります。加えて、人間関係や仕事などの過度なストレスも、交感神経を絶えず優位な状態にしてしまいます。
自律神経が本来の機能を取り戻すには、自然のリズムで、ストレスの少ない生活を送ることが大事です。
とはいえ、現代社会で生活を営む私たちが、いつも日の出とともに起きて、日の入りとともに寝るのは困難でしょう。かえってストレスを生むかもしれません。
そこで、自然のリズムが備わっている「自然音」を利用するのです。

くつろげるとともに、日中は仕事への集中も高まる
緊張や疲労感が和らぎ、手足が温まる
これまでに私たちが行った研究から、自然音の振動には、交感神経と副交感神経の両方の働きを整える作用があることがわかりました。
実際に被験者の心拍を測定すると、自然音を聴くことで心臓の拍動がゆったりと安定し、心地よいリラックス状態に導かれていくのが見て取れます。
また、喜田圭一郎先生の考案された、自然音の特性を持つ音の振動で体をケアするサウンドヒーリング健康法を受けると、10分ほどで足の温度が上昇することも確認されています。
このように自然音には、自律神経のバランスを整え、心拍や血流を正常化する効果が期待できます。
自然音をCDで聴いていると、ほんの2〜3分で緊張や疲労感が和らぎ、血流がよくなり、手足がほんのりと温まってくることに気づくでしょう。私自身、よく書斎で自然音を流しますが、くつろぐとともに、日中は仕事への集中も高まります。
冒頭で述べたような、冷え、むくみ、肩こり、便秘・下痢、イライラするなどの症状を、どうか我慢しないでください。健やかに、いきいきとした毎日を送るため、これまでの生活を見直し、自然音を取り入れてみましょう。

解説者のプロフィール

西條一止
1938年、新潟県生まれ。65年、東京教育大学教育学部理療科教員養成施設卒業。71年、同大学同学部同学科教員養成施設助手。76年、筑波大学講師。77年、医学博士(東京大学)。86年、筑波大学教授。87年、筑波技術短期大学教授。学長。2003年、同大学名誉教授。06年、日本伝統医療科学大学院大学長。08年に退職。主な専攻分野は「自律神経機能からの鍼灸の科学化」。自然鍼灸治療の権威として、多くの治療家を育てている。