MENU
医療情報を、分かりやすく。健康寿命を、もっと長く。医療メディアのパイオニア・マキノ出版が運営
【動脈硬化の原因と症状】犯人はシネディ菌!?

【動脈硬化の原因と症状】犯人はシネディ菌!?

動脈硬化とは、弾力を失い、硬く、もろくなった動脈の状態を差します。心筋梗塞や脳卒中を引き起こす原因になります。偏った食事など、さまざまな生活習慣の乱れが動脈硬化の進行に関わっていますが、近年は、細菌やウイルス感染も原因の一つではないかと見られています。【解説】赤池孝章(東北大学大学院医学系研究科・環境保健医学分野教授)

血管内に入り込んで炎症を起こす細菌

 弾力を失い、硬く、もろくなった動脈は「動脈硬化」と呼ばれ、心筋梗塞や脳卒中のような重大な病気を引き起こす原因になります。

 偏った食事など、さまざまな生活習慣の乱れが動脈硬化の進行にかかわっています。
また近年、細菌やウイルスの感染も、動脈硬化を進行させる要素の1つではないかと考えられるようになりました。

 これまでにも、歯周病菌やピロリ菌など、いくつかの細菌が動脈硬化にかかわっているのではないかと指摘されてきました。
しかし、どの細菌がどのようなメカニズムで動脈硬化の進行を促すかは、まだ明らかになっていません。
その解明には大きな注目が集まっています。

 実は細菌には、それぞれすみつきやすい臓器があります。
そこで私たちの研究チームは、動脈硬化を促す細菌は、血管に侵入して生息しやすい種類だろうと考えました。

 しかも、私たちの体に入り込んだ細菌は、通常は体を防御する免疫の働きで排除され、ほとんど目立った影響を及ぼさなくなります。

 したがって、動脈硬化にかかわるような細菌は、あまり激しい活動をする細菌ではないと考えられます。
つまり、免疫に排除されずに血管内でゆっくり増殖し、長期にわたって弱い炎症を起こすようなタイプであると想定されるわけです。

白血球の一種が脂肪を蓄積しやすくなる

 そうした性質を持つ細菌として、私たちが着目したのが、シネディ菌(ヘリコバクター・シネディ)です。

 シネディ菌は、1984年に初めて人への感染が確認された細菌です。
血管に侵入しやすい菌ですが、腸の中に多く見られ、軽い発熱や下痢などを引き起こす場合があることが知られています。

 私たちは、健康な人でも、10〜20%がこの菌を保有していることを調査で確認しています。
ただし、ほかに組織的な調査が行われた例は見られません。
実際には、より多くの人がこの菌を保有しているのではないかとも推測されます。

写真は大動脈の横断面で、赤く染まった部分が動脈硬化の生じた部分です。
シネディ菌に感染したマウスは、感染していないマウスに比べて脂肪の蓄積が多く、動脈硬化が促進されていることがわかります(提供/東北大学・赤池孝章教授)。

 以前にも私たちは、動脈硬化を起こしている血管にシネディ菌が感染していることを確認していました。

 そこで今回は、シネディ菌が動脈硬化の進行にどのようにかかわっているのかを調べる実験を行いました。動脈硬化を起こしやすい実験用のマウスにシネディ菌を感染させ、血管への脂肪の蓄積を、感染していないマウスと比較したのです。

 その結果、シネディ菌に感染して8週間後のマウスの血管には、感染していないマウスの約2倍の脂肪が蓄積していることがわかりました(上の写真を参照)。
つまり、シネディ菌に感染すると、血管に脂肪が蓄積する量が増え、動脈硬化の進行が促されることが確認できたのです。

マクロファージを使った実験でわかったこと

 動脈硬化にはいくつかタイプがありますが、脂肪の蓄積が関係しているのは主にアテローム硬化というタイプです。
この動脈硬化は、白血球の一種であるマクロファージが、血管の壁に入り込んだ酸化コレステロールを取り込み、その部分に大量にたまることで進行します。

 私たちは、培養したマクロファージを用いて実験を行い、脂肪が蓄積するしくみも調べました。
この実験によって、シネディ菌に感染したマクロファージでは、コレステロールを取り込むたんぱく質が増え、反対にコレステロールを排出するたんぱく質が減ることがわかりました。

 シネディ菌に感染したマクロファージは、脂肪をため込みやすくなり、それが血管壁に蓄積することで動脈硬化が促されるというわけです。

 動脈硬化への細菌やウイルスのかかわりは、これまで否定的に見られてきた傾向があります。
しかし、私たちが行った実験の結果から、シネディ菌が動脈硬化を促進させる要因の1つであることは、ほぼ間違いないと言えるでしょう。

シネディ菌が動脈硬化の進行を促すしくみ

今後さらに研究を進めていきたい

 日本人の死因のうち、心臓病と脳血管疾患を合わせると、死亡数全体の約4分の1を占めます。
その原因となる動脈硬化の予防には、禁煙や運動、食生活の見直しなど、生活習慣の改善が必要です。

 ただし、生活習慣の改善という基本だけで、動脈硬化の予防にじゅうぶんだとは言えません。
今回の私たちの実験は、動脈硬化の予防法や治療法の開発に向けた新たな一歩だと考えています。

 最近、シネディ菌による感染症の症例も、数多く報告されるようになっています。
しかし、これまでシネディ菌の本格的な研究は行われてきませんでした。

 私たちの実験をきっかけとして、シネディ菌の研究がさらに進んでいけば、動脈硬化との関係がより明らかになっていくことでしょう。
私たちも、いっそう研究を深めて、動脈硬化の予防法や治療法の開発に貢献したいと考えています。

解説者のプロフィール

赤池孝章
1984年、熊本大学医学部卒業。91年、熊本大学大学院医学研究科博士課程修了、同年熊本大学医学部助手。92年、同講師。93年、トーマスジェファーソン医科大学客員教授。94年、熊本大学医学部助教授。01年、アラバマ大学バーミングハム校客員教授。03〜06年、文部科学省研究振興局学術調査官併任。05年、熊本大学大学院生命科学研究部微生物学分野教授。08〜12年、文部科学省新学術領域研究『活性酸素シグナル』領域代表。11年、熊本大学医学科長(副医学部長)。13年4月より現職。研究テーマ・専門分野は酸化ストレス、感染・慢性炎症病態の解明。

この記事のエディター

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

関連するキーワード
関連記事
これまで、入院患者さん向けの、いわゆる「リハビリ体操」はありましたが、外来の患者さんが希望するような体操はありませんでした。そこで私たちは、血圧を上げる要因である、末梢の「血管抵抗」を減らす筋トレを考案することにしました。【解説】金子操(自治医科大学附属病院リハビリテーションセンター室長・理学療法士)
私は、これまで40年以上、タマネギをはじめとする、ネギ属の機能性成分を研究してきました。そこでタマネギには、確かに血液をサラサラにする働きがあるということが明らかになったのです。【解説】西村弘行(北翔大学・北翔大学短期大学部学長/東海大学名誉教授)
脳梗塞や心筋梗塞の予防には、アディポネクチンというホルモンの分泌が重要です。アディポネクチンには、傷ついた血管を修復し、血管のプラークを抑制する働きがあることがわかっています。さらに、アディポネクチンには、インスリンの働きをよくして、糖尿病を防ぐ働きもあります。【解説】杉岡充爾(すぎおかクリニック院長)
心不全は、体に炎症を起こすサイトカイン(炎症性生理活性物質)の放出が続いている状態といえます。その炎症が運動によって抑制されることが、最近の研究で明確になっています。「かかと落とし」は、その柱の一つとなっている運動です。【解説】牧田茂(埼玉医科大学医学部教授・同大学国際医療センター心臓リハビリテーション科診療部長)
ニンニクは、精力がつくといった強壮作用で知られています。一方で独特なにおいが苦手という人も少なくありません。しかし、ニンニクのにおい成分には、さまざまな健康効果があるのです。私たちは、におい成分の一つであるMATSに「血栓の形成を抑制する働き」があることを突き止めました。【解説】関泰一郎(日本大学生物資源科学部教授)
最新記事
まずチェック項目で自分の足の指がどんな状態かチェックしてみましょう。はだしになって、自分の足の指をよーく見てください。足の指をチェックして気になる項目があっても、あきらめることはありません。「きくち体操」でこれから足の指を育てていけばよいのです。【解説】菊池和子(「きくち体操」創始者】
私は、60歳の今も左右の視力は1・0を保っています。これまでメガネの世話になったこともありません。老眼知らずの状態をキープしている秘密は、私が毎日行っているトレーニング「目のスクワット」にあるのです。毛様体筋をほぐす効果があります。【解説】本部千博(ほんべ眼科院長)
体重100kgの人なら3kg、80kgの人なら2.5kg程度の減量で、条件付きですが糖尿病の改善は可能です。体重が3%減少すると、ヘモグロビンA1cが3%程度下がることがわかったからです。例えば、ヘモグロビンA1cが9%の人なら、だいたい6%程度まで下がります。【解説】吉田俊秀(島原病院 肥満・糖尿病センター長)
これまで、入院患者さん向けの、いわゆる「リハビリ体操」はありましたが、外来の患者さんが希望するような体操はありませんでした。そこで私たちは、血圧を上げる要因である、末梢の「血管抵抗」を減らす筋トレを考案することにしました。【解説】金子操(自治医科大学附属病院リハビリテーションセンター室長・理学療法士)
1日の疲れを取るには、就寝時間や睡眠時間ではなく、「眠りに就いて4時間以内に、深睡眠を取ること」がたいせつなのです。しかし現代人の多くは、深夜にテレビやスマホを見たり、ストレスで体の緊張が取れなかったりして、本来の睡眠リズムが狂い、深睡眠を取りづらくなっています。【解説】白濱龍太郎(睡眠専門医)