解説者のプロフィール
笑いは腹式呼吸であり内臓のジョギング
私は、医師として40年以上、病気に悩む人々を診てきました。また、現役の産婦人科医師として、年間100名以上の出産に立ち合っています。こうした体験から学んだのは、生を受けてから死に向かうまで、「逝き方とは生き方であり、笑進笑明こそが、自分を進化させる21世紀のライフスタイル」だということです。
私が、人生との向き合い方を考え直すようになったきっかけは、今から17年前、高校卒業30周年の同期会に出席したことでした。当時の私は、産婦人科医としての激務に追われ、いつ倒れてもおかしくない生活を続けていました。そんな中、なんとか時間を作って、同期会に出席することができたのです。私は、懐かしい仲間たちとの再会を心待ちにしていました。
しかし、実際に出席してみると、200人の同期生のうち、8人がすでに亡くなっていたことが判明。しかも、そのうちの4人が私と同じ医師で、大きなショックを受けたのです。
このとき、私は心に決めました。「これまでの過労死寸前の生き方を改め、いつ終わりが来ても、いい人生だったと思えるように」と。そして、そのためには、まず笑うことが大切だということに気づいたのです。
さて、人間は2種類に分けることができるのをご存じでしょうか。それは、「いっしょにいて楽しい人」と「そうではない人」です。皆さんは、どんな人といっしょにいて楽しいと感じますか。それは、やはり笑顔の人ではないでしょうか。
さらに、笑いは、健康にも役立ちます。笑いを呼吸生理学的に考えると、それは連続した呼気、息ははき出すことです。吸気、吸う息では、笑えません。つまり、笑うということは、腹式呼吸の一つであり、健康増進することがわかっています。また、呵呵大笑は、内臓のジョギングともいわれていますね。
実際に、近年、笑いと健康について、たくさんの医学者が研究を重ねて、すばらしい成果が次々と発見されています。
つらいときでもとにかく笑おう!
笑いは、いい遺伝子のスイッチをオンにします。しかし、人生を歩むうえで、どうしても笑えない状況に陥るケースもあります。
その一つが、重篤な病気でしょう。例えば、医師からガンを宣告されて、笑っていられる人がどれほどおられるでしょうか。ガンになると、ほとんどの人は絶望します。あまりの絶望に、心が折れてしまう人もたくさんいます。
人間は、賢い生き物です。賢いからこそ明日のことを心配し、悲観論者になります。しかし反対に、賢いからこそ、笑うことができるのです。
悩むことと笑うことは、本来セット。どんな状況にあっても、人生を楽しみ「にもかかわらず」笑うことが大切なのです。
こんな実験もあります。
1991年、大阪の吉本興業の「なんば花月」で、ガン闘病者を含む19名に、吉本新喜劇を見てもらい、その前後の免疫力の変化を調べたものです。
免疫力の指標であるNK細胞(ガン細胞を撃退するリンパ球)の活性度を調べたところ、低い人は上昇し、高すぎる人は基準値の範囲に戻るということがわかったのです。
ガン = 死刑宣告 ではない
さて、ガンになったからといって、それが死刑宣告と同意ではありません。手術や薬物療法、放射能線治療をしなくても、共生が可能です。実際、老衰で亡くなったかたを調べると、その8割にガン細胞が発見されます。つまり、自分がガンだと気づかないうちに人生を全うする人もいるのです。
この事実から、私は、ガンとの共生が可能だということを確信しています。そして、そのためにも大切なのが、笑って人生を楽しむことなのです。私の経験からも、笑うことで免疫力が高まり、生活習慣病はもとより、ガンを克服したケースを、たくさん目の当たりにしてきました。
ちなみに私は、1997年、ガン患者さんたちと、ヨーロッパアルプスの最高峰、モンブランの頂の見えるところまでトレッキングをしました。さらに、2000年には、ガン患者さん200名と富士山の登頂にも成功したのです。頂上に到達したときの、皆さんの笑顔を、私は一生忘れないでしょう。
さて、私自身、多くの人に笑ってもらいたいと、チンドン屋に変装したり、アコーディオンを演奏したりするなど、さまざまな試みをしてきました。そうした経験からわかったのは、笑いのツボが人によって千差万別だということ。
その点、「笑いヨガ」は、実に優れた体操です。おもしろい、つまらないは関係なく、とにかくまずは声を出して笑う。たとえ、つくり笑いでも、脳の中で笑いの効果は同じなのです。笑っていくうちに、だんだんとおもしろくなって、心から笑えるようになるでしょう。ぜひ、一度試してみてください。
「笑い」の効果

つらいときこそ、とにかく笑いましょう。昔から、こんな言葉もあります。「落ちるだけ落ちたら、後は笑うしかない」と。不思議な日本語のいい回しですね。そして、笑うことと同じくらい、免疫力を高めるのが、泣くことです。涙の中に、ストレスホルモンが排出されます。シクシク(4×9)泣いて36、ハハハ(8×8)と笑って64、合計で100。
泣いて笑って、ちょっとだけ笑いが多ければ、いい人生ですね。
昇 幹夫
1947年鹿児島生まれ。九州大学医学部を卒業後、麻酔科、産婦人科の専門医として大阪在住。現在、大阪市で産婦人科診療を続けながら、「日本笑い学会」副会長として、笑いの医学的効用を研究。「元気で長生き研究所」所長として、全国講演活動中。自称「健康法師」。著書として、『泣いて生まれて笑って死のう』(春陽堂書店)、『笑いは心と脳の処方せん』(リヨン社)、『笑いと食と健康と』(芽ばえ社)など多数。