
COPDは、日常生活にも支障を来します。
皆さん、COPDという病気をご存じでしょうか。正式名称を慢性閉塞性肺疾患といい、主に長期間の喫煙が原因による、肺から全身に及ぶ炎症性疾患のことです。症状としては、慢性的なセキとタン、体を動かしたときの息切れが現れます。
COPDは、症状に気づきにくいのが特徴です。ゆっくりと進行していくため、重症になって、ようやく発見されるケースがほとんどです。症状が重くなると、呼吸不全に陥り、息苦しさのせいで日常生活にも支障を来します。
全世界で、COPD患者数が増加傾向にあります。日本でも、2000年に行われた疫学調査によると、40歳以上の男女の8・5%、530万人がCOPDを発病していることが明らかになりました。
近年、病名の認知度が高まってきましたが、まだまだじゅうぶんとはいえないのが現状です。
私は、長年、奈良県立医科大学でCOPDを専門に研究を続けていました。2007年からは、現在の病院に移り、実際の治療やリハビリ指導を行っています。
COPD専門医として、リハビリ指導の中の運動療法として、注目している体操があります。それが「笑いヨガ」です。
そもそもの出会いは、NHKのテレビ番組で紹介されていたのがきっかけでした。わずか数分程度でしたが、見た瞬間に、「これだ!」と思ったのです。
高齢者でも安全に楽しく行えた!
COPD患者の約40%は、うつ症状を抱えているといわれています。その原因は、やはり呼吸困難です。息苦しさが長く続くうえ、改善する見通しも立たないため、気分が落ち込んでしまうのです。
笑いヨガを見たとき、「これをリハビリに応用すれば、患者さんのうつ症状に効果があるのでは」とピンときました。
早速、インターネットで検索したところ、ヒットしたのが、「日本笑いヨガ協会」でした。そして、リーダー養成講座があることを知り、すぐに参加を決めたのです。それが、2009年2月のことです。
2日間、「日本笑いヨガ協会」の代表の高田佳子さんからていねいに笑いヨガを教わりましたが、正直なところ、最初は違和感だらけでした。
というのも、私が関西出身だからかもしれません。笑いヨガは、おもしろいと感じるネタがなくても、とにかく笑うエクササイズ。これまで、「ネタがおもしろいから笑う」ということが体に染みついているせいで、うまく笑うことができませんでした。
しかし、それも最初だけで、慣れると、すぐに笑えるようになりました。不思議なことに、心の底から楽しいと感じて笑えたのです。
さて、実際に体感してみると、笑いヨガが優れた有酸素運動だということがわかります。その後、早速、COPDのリハビリに笑いヨガを活用しようと研究を始めました。
まずは数名の病院職員と、週1回、笑いヨガを実践しました。その有志の人で、「不安感」「全体的な健康感」「精神的な健康感」などを測定。すると、不安感が下がったうえ、心身ともに健康感が上昇したのです。
さらに、高齢者福祉施設に協力を仰ぎ、1ヵ月間データを取ったこともあります。こちらに関しては、顕著な結果は出ませんでしたが、高齢者でも安全に楽しく行えることがわかりました。
肺に残ったままの息を排出し呼吸が楽になる
2010年4月には、リハビリ入院されているCOPD患者さんを対象に、臨床試験を開始しました。8名の患者さんを二つに分け、Aグループは笑いヨガを取り入れたリハビリを、Bグループは通常のリハビリを行ってもらい、両グループを比較したものです。比較には、慢性呼吸不全専用に作られた特別な指標を用いました。
その結果、「インパクト(病気に負けているという感覚)」の項目が、Aグループは大きく改善し、Bグループはそれほど変化がありませんでした。また、前述した研究データと同じように、Aグループの「全体的な健康感」「精神的な健康感」が、やはり改善したのです。2週間という短い期間なので、じゅうぶんな検証とはいえませんが、この結果だけを見ても、有効性が非常に期待できます。
何より、息切れしやすいCOPD患者さんでも、無理なく、楽しくリハビリに臨めたということが大きな収穫でした。
COPDになると、呼吸の際、息を吐ききれず、空気が肺に残ったままになります。肺に空気が残っているせいで、次に息を吸うとき、たくさん息を吸えません。これが、呼吸困難を引き起こすのです。
笑いは、吐く息の連続です。笑うことで、肺に残った空気の排出が促され、呼吸が楽になります。こうした点からも、笑いヨガが、COPD症状の改善に役立つことに期待して研究を続けています。 COPDと笑いヨガについて、研究は緒に就いたばかりですが、近い将来、私の期待どおりの結果が出ると確信しています。
COPDをはじめ、呼吸器の問題でお悩みのかたは、笑いヨガがお勧めです。最後に注意点を挙げるとすれば、抱腹絶倒するような大笑いだけは避けましょう。とはいえ、あまり心配せず、普通に笑いヨガを行っていれば問題はありません。
解説者のプロフィール

福岡篤彦
1963年、大阪市生まれ。奈良県立医科大学を卒業後、内科・呼吸器科として、同大学附属病院、吉野町国民健康保険吉野病院(現:南和広域医療企業団吉野病院)で医療・研究に従事。現在、南和広域医療企業団吉野病院院長として、過疎地で高齢者医療に邁進中。奈良県立医科大学臨床教授。COPD患者の栄養管理とQOL(生活の質)の向上をテーマに研究している。笑いヨガに出会い、笑いによる高齢者の健康増進をテーマの一つにしている。座右の銘は「一期一会一笑」。
●南和広域医療企業団 吉野病院
奈良県吉野郡吉野町大字丹治130番地の1
[TEL]0746-32-4321
http://nanwairyou.jp/yoshino/
職員の不安感も下がった!