
新鮮な酸素を効率よく体内に取り込める
私は、内科の開業医として、さらには地域の保健センター指導医として、よりよい健康長寿を実現するため、さまざまな予防医学的な健康講座を企画・立案してきました。また、徳島県医師会の禁煙推進・禁煙支援の担当者でもあり、クリニックに禁煙外来を設けるなど、30年にわたって患者さんや地域住民のかたがたと向き合ってきました。
健康のためには、禁煙することはもちろん、食事や運動などの生活習慣が重要です。体に悪影響を与えるような習慣をお持ちなら、その行動を変えること、いわゆる「行動変容」が必要になります。
さて、禁煙外来の患者さんたち、また、健康講座に参加されるかたがたと長年接していくうちに、とても興味深いことに気づきました。
それは、行動変容がうまくいく人と、うまくいかない人がいるということです。その違いは、いったいなんなのでしょうか?
禁煙がうまくいく人と、うまくいかない人の違い
大ざっぱに、人間は2種類に分けることができます。ポジティブ思考の楽観主義者と、ネガティブ思考の悲観主義者です。
生活習慣を改善したい、運動する習慣を身につけたい、禁煙したいと思いながらも、なかなか実行に移せないかたは、心に余裕がないネガティブ思考であることがほとんど。それなりに危機管理ができる反面、「失敗したらどうしよう」というプレッシャーを感じやすく、身動きが取れなくなってしまうのです。
一方、ポジティブ思考のかたは、多少困難なことでも、とにかく取り組んでくれます。途中で問題が起こったとしても、「まあ、いいか」と気に病むこともありません。心に余裕があることで行動的になり、自然と健康的な意識が身につくのです。
たとえば、禁煙に成功した人は、私が指導した健康知識をよく覚えている傾向があります。内容もきちんと理解しているので、それが土台となって、食事に気をつけたり、運動を心がけたりするようになります。禁煙の成功だけでなく、非喫煙者よりも健康な体を手にされたかたもいるのです。
さて、問題はネガティブ思考の持ち主です。これまで、たくさんの健康講座を開催しましたが、最初から関心を示さない人、途中で脱落していく人をおおぜい目の当たりにしてきました。そうしたかたがたに、どうアプローチすればよいのか。私は、予防医学に携わる人間として、大きな課題を感じていました。
そんなときに出会ったのが、「笑いヨガ」だったのです。同じ四国出身の精神科医・枝廣篤昌先生から教わったのがきっかけでした。
正直、笑いヨガを初めて知ったときは、「怪しすぎる!」と思いました。しかし、私は、怪しいものが大好き(笑)。

枝廣先生に、どこで勉強できるか聞いてみると、「日本笑いヨガ協会」というところで、リーダー養成講座なるものが存在するというではありませんか。
私は、なんの予備知識も持たずに、とにかく受講することにしました。
実際に勉強してみると、第一印象とはうらはらに、実に理論のしっかりした、すばらしい体操だということがわかりました。
また、自然と腹式呼吸になるため、有酸素運動としても優れています。新鮮な酸素を効率よく体内に取り込めるため、健康と活力が実感できました。
笑って幸せな人は寿命が10年延びる
受講後、私はすぐに健康講座で笑いヨガを取り入れました。最初は、ぎこちなく笑っていた人も、しだいに本物の笑いに変わっていき、参加者の表情はみるみるうちに晴れてきたのです。
何より驚いたのは、講座終了後、私を含めた保健師や運動指導士などのスタッフと、参加者の距離が一気に縮んだことです。笑いが、すべてを変えた瞬間でした。
禁煙はもちろん、糖尿病などで生活習慣を変えたいという思いを持ちながら、なかなか実行に移せないかたは、笑いヨガがお勧めです。無理に生活習慣を変えようとストレスをためるより、まずは笑ってください。あなたが笑えば、気分が変わります。気分が変われば行動が変わり、行動が変われば思考がポジティブになっていくのです。
笑いヨガは、だれでも理由なく笑える、今までにない新しい健康法です。ユーモアやコメディといった、笑うための材料も必要ありません。一人で行っても、何人かで集まって行っても効果は変わりません。年齢や性別も関係なく、座ったままでも行うことができるので、運動療法の観点からも非常に優れているといえます。
そして、笑うと、幸福感に包まれます。幸福感が高まれば、長寿にもつながるのです。実際、人生を楽しんでいる人は、心筋梗塞などの虚血性心疾患になるリスクが少ないという研究データもあります。また、幸せな人は、そうでない人に比べて、寿命が約10年長くなるという報告もあるのです。
「笑う門には福来る」という言葉もあります。ぜひ、多くのかたに笑いヨガを実践してもらい、健康長寿はもちろん、よりよい人生を過ごすために役立てていただきたいと思います。
解説者のプロフィール

中瀬勝則
1986年、金沢医科大学卒業。同大学消化器内科助手を経て、1993年から徳島市にて中瀬医院を開院。現在、徳島市医師会常任理事、徳島市保健センター指導医、「日本笑い学会」四国支部講師、Jリーグ『徳島ヴォルティス』チームドクターなどを務め、地域住民や企業内で、笑いによる健康教育、禁煙支援などに従事。マイブームは、人里離れた場所でアイロン掛けを行う「エクストリーム・アイロニング」、中央に人がいない記念写真を撮影する「見切れ写真愛好家」など。
●中瀬医院
徳島県徳島市富田橋1丁目11-2
088-623-3758