解説者のプロフィール

河埜玲子
滋賀医科大学医学部医学科卒業。麻酔科医として臨床に携わるなか、予防医学と食育の普及の必要性を感じ、健診業務にも携わる。また家族の食生活を管理してきた経験を生かし、実践しやすい健康レシピを提供し、食育講座の講師なども務める。著書に「忙しい人のための一品で栄養バランスが取れるレシピ」(SBクリエイティブ)がある。
納豆1パックに大さじ半分程度の酢を入れるだけ
私は、総合病院の麻酔科に勤める医師です。同時に、健診センターにも籍を置き、健康診断の結果説明や、簡単なアドバイスもしています。患者さんのなかには、食に対して勘違いをしているかたもいて、それが病気や不調を引き起こしているケースも少なくありません。
幼少期から、「きちんとバランスよく食べること」を身につけてほしい。「それが健康な体をつくる」ということを伝えたい。その思いから、料理家としての活動も行い、簡単でおいしく、栄養バランスが取れるレシピを紹介しています。
私のレシピに、頻繁に登場するのが納豆です。私自身、ほぼ毎日欠かさず納豆を食べています。夫と小学生の娘も食べるので、毎日でも飽きないようにアレンジしています。
例えば、水で戻した切り干しダイコンとキムチを納豆に混ぜ、添付のたれと酢を加えると、歯ごたえのよい一品になります。朝食によく登場するのは、納豆にせん切りキャベツ(生でも、レンジで加熱してもOK)を混ぜ、たれと梅干しを和えた物。アボカドとヤマイモを混ぜたり、チーズを小さく切って入れたりもします。味つきのメカブを混ぜるだけでも、目先が変わっておいしいものです。
幸いなことに、我が家は全員納豆が好きですが、「においが嫌い」「粘りが苦手」というかたも多いようです。そこで私は、納豆を食べやすくする工夫として、「酢を加えること」をお勧めしています。
納豆に酢を加えると、独特のにおいが軽減してさっぱりした味になります。また、粘りが緩んでサラッとし、食べやすくなるのです。ですから、私の紹介する納豆レシピのほとんどに、酢が入っています。納豆1パック(50g)に対し、酢は大さじ半分程度なので、酸っぱ過ぎることはありません。
善玉菌を増やし、血糖値や中性脂肪値の上昇を抑える作用
納豆は、良質のたんぱく質を豊富に含むダイズを、納豆菌で発酵させた食品です。ダイズが本来持つ栄養成分のほか、発酵の過程で生まれた新たな有効成分を持つ優秀な食材です。
納豆を毎日食べるようになったとき、最初に実感できるのは、便通の改善でしょう。それもそのはず。納豆には、腸内環境を整えるための働きや成分がそろっているからです。
私たちの腸には、重さにして1kgもの細菌が棲んでいるといわれます。これらの腸内常在菌には、人体に有益な物(善玉菌)と有害な物(悪玉菌)のほか、腸内環境によってどちらにもなる日和見菌があります。
腸内において納豆菌は、活性酸素(老化の元凶物質)を分解する酵素と、善玉菌のえさとなる栄養分を作りだし、善玉菌の増加を強力にサポートします。
ただし、納豆菌は腸内常在菌ではないため、定期的に口からとり入れる必要があります。毎日食べるのをお勧めするのは、そのためです。
また、納豆に含まれるダイズオリゴ糖は、胃で消化されにくく腸まで届くので、腸内細菌のえさになって腸内環境を整えます。血糖値や中性脂肪値の上昇を抑える作用もあります。
さらに納豆には、食物繊維も豊富です。便のかさを増して便通をよくする不溶性食物繊維と、善玉菌のえさになる水溶性食物繊維の両方を、バランスよく含んでいます。
このように、納豆は腸内環境を良好にし、便秘を予防・改善するわけです。結果として、便秘に伴う吹き出物などの肌トラブルも回避できるでしょう。
納豆に含まれるダイズペプチドや食物繊維は、コレステロールを吸着して排出する作用を持ちます。その結果、血中のコレステロールも減少し、動脈硬化を予防するといわれています。
さらに、納豆には、女性ホルモンに似た働きを持つダイズイソフラボンや、骨の材料となるカルシウム、そのカルシウムを骨に定着させるビタミンK、貧血を予防する鉄も豊富です。
また、納豆は、植物性食品には珍しく、ビタミンB2を含みます。ビタミンB2は、食べ物から摂取した脂質やたんぱく質を、効率よくエネルギーに変える働きをします。欠乏すると、口内炎や肌荒れを引き起こすので、そうした体のサインに早めに気づき、納豆で体調管理をしましょう。
私の祖父は肉が大好きで、野菜や豆、海藻などをほとんど食べない人でした。祖父が脳梗塞で倒れたとき、私はまだ医師ではありませんでしたが、「健康も病気も、食べ物がつくるのだ」と思った記憶があります。
酢納豆を食べるだけで万病が防げるわけではありませんが、納豆の持つ健康効果を正しく理解し、酢を加えて毎日食べてみてください。ほかの食材との組み合わせを考えているうちに、食生活が整ってくるでしょう。