解説者のプロフィール
糖分、脂肪、お酒のとりすぎが視力を衰えさせる
老眼が進行して、手元が見づらい。近くを見てから遠くを見ようとすると、一瞬ピントが合うのが遅れてわずらわしい。
こうした視力の衰えは、老化によるもので、年齢を重ねれば仕方がないことだと考えている人が多いと思います。
しかし、実は、生活習慣による影響も大きいのです。老眼をはじめとする目の不調を招く隠れた原因が、添加物の多い食品や、甘いもの、脂肪の多いもののとりすぎ、お酒の飲みすぎ、服薬の習慣などです。
これらの生活習慣の共通点は、肝臓に負担をかけるということです。言い換えれば、視力の衰えは、長年にわたり、酷使されてきた肝臓が弱った結果なのです。
中医学では古来、老眼をはじめとする目の病気・不調の多くは、五臓六腑(肝・心・脾・肺・腎の五臓と胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦の六腑をまとめた中医学の概念)のうちの「肝」(肝臓を主とした血液を蓄える器官を総合した概念)の弱りがかかわっていると考えてきました。
人間の体には目や鼻、口、肛門など、合計九つの穴が開いています。中医学ではこれらの穴を「竅」と呼び、それぞれの竅には、五臓六腑のいずれかの状態が現れると考えられています。そして、肝の状態が反映される竅が、まさに目なのです。
そのため、目の病気や不調に対する治療では、肝の働きを整える作用があるツボを刺激することが多いのです。
ツボへの指圧は、症状の現れている部分に近いツボほど即効性があり、遠いツボはその症状の原因を根本的に治すといわれています。
今回は、そのなかでも効果が高く、自分でも刺激しやすい三つのツボをご紹介します。
パッと視界が明るくなる即効性の高いツボ
①太陽のツボ
第1のツボは、こめかみにある太陽です。
太陽は、目じりと眉じりを結んだ線の中心から指の幅1本分(約2㎝)耳寄りの、少しくぼんだ部分にあります。周囲を指の腹で探ってみて、いちばん圧痛(押したときに感じる痛み)がある場所を見つけてください。
太陽は、経絡(生命エネルギーである「気」の通り道)に属さない奇穴と呼ばれる独立したツボです。ここを刺激するだけでパッと視界が明るくなることから、「眼医者いらず」とも称されるほど、目の機能を高める即効性のあるツボです。
太陽は、持続的に圧をかけて刺激することで、非常に高い効果が得られます。左右の太陽に両手の人さし指の腹を当て、その上に中指を重ねます。そのまま痛いけれども気持ちよく感じる程度に、強めに1分間指圧を続けてください。
その後、力を抜いて休みを入れてから、再度1分間持続圧を加えます。これを5回くり返します。目の近くを刺激しますから、誤って指が目に入ることのないよう、注意深く行ってください。
目が疲れたりかすんだりという症状があるとき、まずは太陽を指圧するとよいでしょう。ただ、太陽は即効性がある反面、持続性に弱い面があります。
太陽のツボの見つけ方・押し方

②脳空のツボ
そこで組み合わせたいのが、第2のツボ、後頭部にある脳空です。その名のとおり、脳、特に視覚をつかさどる視覚野に働きかけるツボです。
脳空は、小指と薬指で耳を下から挟んで3本の指を後頭部に当てたとき、中指の先が当たるところにあります。押すと、ビーンと強い痛みを感じます。
脳空への指圧は、手で頭を包み込むように支えながら、親指で指圧するとやりやすいでしょう。息を吐きながら10~15秒指圧します。息は吐き切ったら力を抜き、息を取り込んで、また息を吐きながら圧をかけます。 脳空は、最初、押すと強い痛みを感じやすいツボですが、指圧を続けているうちに、圧痛が軽くなっていきます。痛みが気にならなくなるまで、1~5分ほどくり返しましょう。
脳空のツボの見つけ方・押し方

③太衝のツボ
第3のツボは、足の甲にある太衝です。足の甲で、親指と第2指の骨が交わる箇所の、やや親指の骨側にあります。
太衝は、肝と関連のある経絡・肝経に属するツボで、目の不調の根本原因である肝の衰えを改善する効果があります。
右ひざの上に左の足首をのせ、左手で左の足首を支えながら、右手の人さし指~薬指の3指を、左足の親指と第二指の骨の間に当てます。このとき、右手の中指が左足の太衝に当たるようにしてください。右手の親指は左足の裏に添えます。
3本の指で左足の親指の骨を引っ張り上げるように、やや強めに1分ほど圧を加え続けるのを、数回くり返します。右足の太衝も同様に指圧してください。
太衝のツボの見つけ方・押し方

これら三つのツボ刺激は、1日に何回行ってもかまいません。肝の状態がよくなる過程で、指圧後に眠気を催すことがありますから、寝る前の指圧を習慣にするのもお勧めです。
目の疲れが強いときや飲酒後は、ふだんより圧痛が増すはずです。その場合は、無理に強く指圧せず、やや弱めの指圧を長く続けるとよいでしょう。
近年は、パソコンやスマートフォンの長時間使用が原因で、目のトラブルに悩まされる人が急増しています。
20~30代の若い世代でも、ピント調節機能が弱まって手元の文字が見づらくなる、いわゆる「スマホ老眼」を起こしているかたも少なくありません。
今回ご紹介したツボ刺激は、目の疲れをはじめ、かすみ目、視力の向上、老眼、飛蚊症、緑内障、白内障など、さまざまな目の病気・不調の改善に役立ちます。ぜひ覚えて、クリアな視界を維持してください。
田中 勝
田中鍼灸指圧治療院院長。北海道生まれ。治療のかたわら、鍼温灸や経絡あん摩、関節運動法講習会を開催するなど、精力的に活動。経絡を用いたあん摩・指圧の実技を解説したDVD『よくある症状への手技治療』(医道の日本社)が好評発売中。
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