解説者のプロフィール
クコの実は目の不調に効く生薬の筆頭格
古来、不老長寿の妙薬とされてきたクコは、ナス科の植物です。滋養強壮に優れているため、実(生薬名は枸杞子)はもちろん、根や葉も、生薬として(生薬名は根が地骨皮、葉が天精草)役立てられています。
特にクコの実は、疲れ目やかすみ目、老眼、飛蚊症、ドライアイをはじめとする目の不調によく効く生薬の筆頭として重用されてきました。
中医学では、目は「肝」(肝臓を主とした血液を蓄える概念)と深い関連があるとされています。クコの実は、全身を巡る「血」(血液とそれの持つエネルギー)を増やす補血作用に優れ、血を増やして、肝の働きは助けます。
その結果、目の働きもよくなると考えられているのです。
現代の栄養学的に見ても、クコの実は目に有効な成分が豊富です。
たとえば、黄色の色素であるカロテノイドは、抗酸化作用が強く、視力の低下や白内障、眼精疲労などの症状によい成分として知られています。
また、ゼアキサンチンは目の黄斑部(網膜内の、光を感じる視細胞が集まる場所)を守る天然のサングラスのような働きがあり、加齢黄斑変性を防ぐ成分として注目されています。
こうした目の健康によいクコの実をハチミツと酢に漬けて、毎日食べやすい形にしたのが「クコの実酢」です。
中医学では、食べ物の味を、酸(酸っぱい)、苦(苦い)、甘(甘い)、辛(辛い)、鹹(塩辛い)の5種類に分けてとらえています。これを「五味」と呼びます。
この五味のうち、酸は、肝の働きを高めるとされています。クコの実の甘酸っぱさと酢の酸味が、肝を強くして、目の機能を高めてくれるのです。
また、酢は疲労物質である乳酸や、脂肪を分解する働きがあることでも知られています。適度にとれば、血液をサラサラにする効果も期待できるでしょう。血液の流れがよくなることで、クコの実酢の有効成分も、目の毛細血管にまで行き届きやすくなります。
ハチミツは、滋養に優れた食品です。漢方では、煎じ薬を煮詰めたものにハチミツを加え、練り合わせて丸めたものを丸剤と呼びます。ハチミツを加えるのは、ハチミツの滋養が病人に体力をつけると考えられたからです。
またハチミツには、異なるものを調和させる働きがあります。補血作用に優れたクコの実は、補(足りないものを補ったり、合成したりする作用)の性質を持つ食品です。
これに対し、酢は瀉(不要なものを外に出したり、分解したりする作用)の性質を持つ食品です。
この正反対の性質を持つ二つの食品をハチミツで調和させることで、体に無理なくとり入れられるのです。
クコの実酢は、眼精疲労に高い効果が期待できます。スマホやパソコンなどの使用で疲れた現代人の目に、クコの実酢はうってつけです。
目の疲労は視力を低下させます。クコの実酢によって目の疲れを取り去れば、視力の向上も期待できるでしょう。
クコの実酢は、視力低下のみならず、加齢黄斑変性や緑内障、白内障、飛蚊症などの眼病対策にもお勧めです。

クコの実は粒が大きく、鮮やかな赤色をしているものが上質
ぬるま湯に混ぜると吸収がよく酸っぱくない
クコの実は品質や値段に差があります。実が大粒で赤色が鮮やかで、しっかりと乾いているものを選んでください。小さかったり黒ずんだりしているものは、質がよくありません。
目の疲労回復を期待するのであれば、クコの実酢は1日に20粒(大さじ1杯弱)を目安に食べるとよいでしょう。
クコの実は酢とハチミツの作用によって柔らかくなっていますが、食べるさいにはよく嚙んでください。
クコの実酢は、そのまま食べてもかまいませんが、40~60℃程度のぬるま湯に混ぜていただくと、酸味が気にならずに食べやすくなります。ちなみに中国医学では、胃の温度(約38℃)よりもやや高い温度の食品を食べると、食品の栄養が吸収されやすいと考えられています。
目が疲れた日の夕食時や、よく目を使う予定のある日の朝食時に、ぜひクコの実酢をお試しください。
私も、よく目を使った日はクコの実酢を食べています。まずは1週間、食べ続けてみてください。目が疲れにくくなるのがわかるはずです。
クコの実酢は酢の刺激があるため、空腹時に食べるのは避けてください。胃酸過多の人や、胃に不快な症状を感じた人も様子を見ながら食べるとよいでしょう。
また、クコの実とハチミツには便をゆるくする働きがあります。便秘解消に役立ちますが、人によっては下痢を起こす場合があります。そのさいは食べる量を少なめにしてください。
井上正文
薬剤師。群馬県前橋市にある木暮医院の漢方相談室で、自分の体は自分で守るというコンセプトのもと、患者一人一人の体質に合った漢方を処方。著書に『心と体にやさしい漢方の知恵』(上毛新聞出版)がある。雑誌や講演などで、漢方への理解を深める活動にも積極的に取り組む。
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