ミカンを食べる人ほど糖尿病が少ない!
「果物は糖分や果糖が多いので、糖尿病の原因になる」。そう聞いたことがある人は多いでしょう。
糖分が気になるので、「ミカンは食べない」という人もいるかもしれません。
しかしこれは、根拠のない、いわば「風評」です。
そこで私たちは、ミカンが糖尿病に与える影響を、きちんと調べたいと考え、二十数年前に研究を開始しました。
その際、心がけたのは、審査の厳しい欧米の医学雑誌にも掲載されるような、しっかりした研究を行うことでした。それでこそ、ミカンの風評を打破できると考えたからです。
そこで、まずは、予備調査として、6049名の一般消費者を対象にアンケートを行い、ミカンを食べている頻度と、糖尿病の有病率を比較しました。
すると、ミカンをよく食べている人ほど、糖尿病の人が少なく、毎日4個以上食べている人は、週に1〜3個以下の人のおよそ半分の有病率でした。
次に、ミカンに含まれる有効成分に着目した研究を行いました。ミカンなどのカンキツ類に特徴的に多く含まれる有効成分として知られているのが「β‐クリプトキサンチン」です。
これはβ‐カロテンなどと同じカロテノイドの仲間で、すぐれた抗酸化作用(体に有害な活性酸素を除去する作用)を持っています。
しかも、構造上、多種類あるカロテノイドのなかでも、特に吸収されやすく、体内の蓄積時間も長いので、体のすみずみまで届いて作用します。
β‐クリプトキサンチンの血中濃度が重要
β‐クリプトキサンチンの血中濃度は、ミカンを食べれば食べるほど、上昇します(下図参照)。

私たち(農研機構果樹研究所、浜松医科大学)は、ミカンの産地として有名な静岡県浜松市三ヶ日町の協力者(30〜70歳の1073人)の中から、調査開始時に糖尿病と診断されていない人を対象に選び、平成15年から25年まで、10年間の追跡調査を行いました。
全員のβ‐クリプトキサンチン血中濃度を調べて、血中濃度上位1/3、中位1/3、下位1/3にグループ分けし、10年の間にどのくらいの人が糖尿病を発症するかを調べたのです。
β‐クリプトキサンチンの血中濃度は、ミカンの摂取量を反映しています。かつ、アンケート調査のように曖昧ではないので、この手法は、後に医学雑誌に掲載される際、高く評価されました。
さて、10年後の平成25年に、糖尿病の発症率を見たところ、β‐クリプトキサンチンの血中濃度が低いグループ(ミカンの摂取が少ない人)では、糖尿病の発症率が高くなっていました。
それに比べ、β‐クリプトキサンチンの血中濃度が高いグループでは、糖尿病の発症リスクが57%も抑えられていたのです。
また、別の調査では、高血糖の人同士で比べても、β‐クリプトキサンチンの血中濃度が高いと、肝機能が正常に近い値に保たれやすいこともわかりました(※1)。
高血糖の弊害の一つに、肝機能を低下させることがありますが、ミカンを積極的にとっていると、その弊害を抑える効果もあることがわかったのです。
当初の目的どおり、以上の研究成果は、欧米の医学雑誌に掲載されました。
この結果から、ミカンが糖尿病の原因になるというのは誤りで、むしろ適切な摂取は糖尿病の予防や悪化防止、改善に役立つといえます。
(※1)血中ALT値による判定:Sugiura et al.Diabetes Res Clin Pract. 2006 Jan;71(1):82-91.

オレンジ色が濃く味の甘いミカンがお勧め
では、どんなミカンをどのくらい食べればよいでしょうか。 β‐クリプトキサンチンは、オレンジ色のミカンに含まれており、オレンジ色が濃いほど、また味が甘いほど多く含まれることがわかっています。
できればそういうミカンを選んだうえで、目安としては1日3〜4個ほど召し上がるとよいでしょう。
これは、研究結果から導いた目安ですが、糖尿病の食事療法でも、80kcalを上限に果物をとるほうがよいとされており、これに当てはめると、中くらいのミカンなら2〜3個となります。
解説者のプロフィール

矢野昌充
農学博士。農林水産省野菜試験場、果樹試験場で野菜や果実の流通技術に関する研究に取り組む。その後、農業・生物系特定産業技術研究機構果樹研究所カンキツ研究部上席研究官として「カンキツの健康効果に関する研究」等を企画立案し、コーディネーターとして推進。現在はアドバイザリーボード「フルーツ広場」にて、ミカンなどの果物の健康効果について啓発活動を行う。杉浦実氏との共著『みかんでぐんぐん健康になる本』(BABジャパン)がある。