解説者のプロフィール
ミカンをたくさん食べる人ほど骨が丈夫!
超高齢社会となった日本で、対策が急がれている病気の一つが骨粗鬆症です。
骨密度、つまり、骨に含まれるカルシウム濃度が低下して、骨がもろくなるのが骨粗鬆症です。それによる骨折などは、要介護や寝たきりにつながるため、なんとしても防ぎたい病気です。
まだあまり知られていませんが、骨粗鬆症対策として、大きな力を発揮する物質があります。それは、ミカンに豊富に含まれているβ‐クリプトキサンチンです。
β‐クリプトキサンチンは、β‐カロテンなどと同じカロテノイドの仲間で、ミカンに代表されるカンキツ類に多い特徴的な成分です。
β‐クリプトキサンチンの血中濃度は、ミカンの摂取頻度に比例して高くなることがわかっています。
私たちは、β‐クリプトキサンチンが骨粗鬆症に与える影響を調べるため、糖尿病と同様の方法で、骨粗鬆症になっていない人を対象に、追跡調査を行ったのです。
協力者全員のβ‐クリプトキサンチン血中濃度を調べて、
①濃度上位1/3のグループ(ミカンを毎日4個程度食べる人に相当)
②濃度中位1/3のグループ(ミカンを毎日1〜2個食べる人に相当)
③濃度下位1/3のグループ(ミカンを毎日は食べない人に相当)
に分け、平成17~21年までの4年間に、それぞれどのくらいの人が骨粗鬆症を発症するかを調べました。
すると、β‐クリプトキサンチンの血中濃度が高い(ミカンをよく食べている)グループほど骨粗鬆症になる率が低く、③群の発症率に比べて、①群は92%も低く抑えられていました(下の図参照)。

骨の形成を促進し骨の破壊を抑制する
骨細胞は、絶えず一定量が壊され、一定量が作られてバランスを保っています。作られる量より壊される量が多くなると、骨粗鬆症が起こります。
高齢になると、このバランスが壊されるほうに傾くため、骨粗鬆症の危険が高まるのです。
ミカンに豊富に含まれるβ‐クリプトキサンチンには、骨細胞が作られるのを促進し、壊されるのを抑制する作用のあることがわかってきました。
被験者にミカンジュースを4週間飲んでもらってβ‐クリプトキサンチンの血中濃度を高めると、骨細胞の破壊が抑えられ、合成が高まることが確認されたのです(※1)。
さらには、静岡県立大学薬学部と金沢大学薬学部の研究により、そのメカニズムも明らかにされました(※2)。 骨密度といえば、カルシウムやビタミンDの摂取も大切ですが、同時に積極的にミカンを食べることで、骨粗鬆症を効果的に防げるといえるでしょう。
(※1)Yamaguchi ら、J. Health Sci. 51, 738-743, 2005
(※2)Yamaguchi ら、J Biomed Sci. 2012 Apr 2;19:36、Ozaki ら、
J Pharmacol Sci. 2015 Sep;129(1):72-7.
抗酸化作用や炎症を抑える作用が重要
同じような方法で調査したところ、ミカンをよく食べる人は、動脈硬化症のリスクが45%抑えられることもわかっています。
これは、β‐クリプトキサンチンのもつ抗酸化作用のほか、炎症を抑える作用が影響していると考えられます。動脈硬化は、動脈壁の炎症が深くかかわって起こりますが、β‐クリプトキサンチンには、それを抑える作用があるからです。
このほか、同様にミカンを多く食べることで、肝臓の機能異常を起こすリスクは50%抑えられることもわかりました。
また、脂質代謝の異常(高コレステロール血症や高中性脂肪血症など)を起こすリスクは、33%抑えられるという結果も出ています。
ミカンは、オレンジ色が濃いほど、また甘いほどβ‐クリプトキサンチンを多く含んでいます。
ここに挙げた効果を期待するには、できればそういうミカンを中心に、1日に目安として3〜4個食べるとよいでしょう。
矢野昌充
農学博士。農林水産省野菜試験場、果樹試験場で野菜や果実の流通技術に関する研究に取り組む。その後、農業・生物系特定産業技術研究機構果樹研究所カンキツ研究部上席研究官として「カンキツの健康効果に関する研究」等を企画立案し、コーディネーターとして推進。現在はアドバイザリーボード「フルーツ広場」にて、ミカンなどの果物の健康効果について啓発活動を行う。杉浦実氏との共著『みかんでぐんぐん健康になる本』(BABジャパン)がある。