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日本のミカンには血管を保護する作用はあるか?
海外の研究では、レッドオレンジの摂取によって血管を保護する作用が働き、心筋梗塞など心血管病の予防につながることが報告されています。
では、日本の温州ミカンはどうでしょうか。私の教え子である、愛媛大学医学部の学生が行った研究をご紹介しましょう。
実験に使ったのは、ミカンとイヨカンです。
それぞれ果汁40%のジュースを作り、マウスに2週間飲ませた後、動脈硬化を起こす処置を行って、さらに2週間ジュースを飲ませて、血管の変化を見ました。
すると、驚くべき結果が得られました。水だけを飲んだ対照群のマウスは、動脈硬化を起こす処置を行うと、当然、血管壁が厚くなります。
ところが、ミカンを飲んだマウスとイヨカンを飲んだマウスは共に、血管壁の肥厚が抑えられていました。厚みの面積を測定してみると、水だけを飲んだマウスの3分の2程度だったのです(図参照)。

高血圧や糖尿病があると、血管に炎症細胞が集まってきて、動脈硬化を起こすといわれています。
特にイヨカンでは細胞の増殖も抑えられていたので、炎症抑制作用が働いて、動脈硬化を予防したと考えられます。
血管にダメージを与える酸化ストレスも、ミカン、イヨカン共に抑えられていました。
この研究結果から言えることは、日本のミカンやイヨカンにも、動脈硬化を抑制して心血管病を予防する効果があるということ。しかも、その効果は果汁を飲むだけで得られるのです。
昨今、日本では果物離れが進んでいますが、果汁を飲むだけでよいとなれば、手軽に、多くのかたに実践していただけるのではないでしょうか。
ミカンの種類によって含まれる栄養素が異なる
おもしろいことに、同じカンキツ類でも、ミカンの種類によって含まれる栄養素はずいぶん異なります。
例えば、イヨカンは、フラボノイド系の成分が多く含まれているという特徴があります。なかでも、血流を増やしたり、血管の老化を防ぐビタミンとして最近注目されている「ヘスペリジン(ビタミンP)」は、ミカンの約20倍もあります。
実は、今回の実験では40%の果汁のほかに、10%の果汁を飲ませたマウスでも血管の変化を比較しました(図参照)。

すると、40%の果汁では、ミカンもイヨカンも結果にさほど違いはなかったのですが、10%の果汁では、イヨカンのほうがより動脈硬化を抑制する作用が強いという結果が出ました。
これにより、動脈硬化の抑制には、イヨカンに特に多く含まれるヘスペリジンが関与しているのではないかと考えています。
一方、ミカンにはレチノイド系の成分が多く存在します。免疫(病気に抵抗する力)を促進する作用や骨粗鬆症の予防効果があるといわれている「β‐クリプトキサンチン」は、イヨカンの約7倍も含まれています。
動脈硬化の予防が目的なら、ミカンジュースなら1日コップ3~4杯程度、イヨカンジュースなら1杯程度で効果が期待されます。ただし、果物には糖分が含まれますので、肥満や糖尿病が気になるかたは、取りすぎには注意しましょう。
ミカンの皮もおすすめ
皮にもヘスペリジンや食物繊維などの有効成分が豊富にあります。より高い効果を求めるなら、果汁だけでなく果肉や薄皮も食べるのがお勧めです。
さらに、カンキツ類のさまざまな機能性を期待するなら、成分構成が異なるミカンとイヨカンを両方摂取するのも手です。
なお、動脈硬化のほかに、カンキツの果汁には認知機能の低下を抑制する効果があるという報告もあります。私の研究室では、現在ヘスペリジンに着目して、認知機能に与える影響について調べています。まだ結論は出ていませんが、ある程度の手応えを感じています。
脳血流に対する効果が明らかになれば、動脈硬化を抑えるメカニズムもよりくわしく解明できるでしょう。その意味からも、今後の研究成果に期待が寄せられています。
茂木正樹
愛媛大学大学院医学系研究科薬理学教授。医学博士。1994年大阪大学医学部卒業。専門は内科、高血圧、老年内科。主な研究は神経科学、認知症、脳卒中、動脈硬化、糖代謝など。マウスを用いた行動科学研究や認知症・脳血管障害に対する脳保護薬の探索や、幹細胞を用いた細胞治療を研究内容としている。生活習慣病患者における認知機能障害に対し、新しい視点を含めて研究に励んでいる。