解説者のプロフィール
日本人の緑内障は眼圧を下げるだけでは不十分
今、日本人の失明原因でいちばん多いのは、緑内障です。
緑内障は加齢とともに増加し、40代以上で5%、70代以上になると11%もの人が緑内障にかかるといわれています。
緑内障は、眼圧が高くなって視神経(目のスクリーンに当たる網膜の神経節細胞)を障害し、視野が狭くなる病気です。
現在、緑内障の治療は、点眼薬などで眼圧を下げる治療が中心です。
しかし日本人の場合、患者さんの約7割は眼圧が正常(10〜21㎜Hg)な正常眼圧緑内障です。
治療で眼圧を下げても、視野障害が進行する患者さんが少なくありません。
このように日本人の緑内障に対して、眼圧を下げる治療だけでは限界があります。
東北大学では、それにプラスして、何か有効な治療がないか、長年模索してきました。
緑内障は、眼圧以外に、加齢や血流、酸化ストレス、慢性炎症、遺伝子など、さまざまな要因が関係して発症する病気です。その中で私たちが注目したのは、酸化ストレスでした。
酸化ストレスが高いほど、緑内障が重症化しやすい
酸化ストレスというのは、活性酸素によって引き起こされる生体にとっての有害な作用のことです。
身近なところでは、喫煙や過度の飲酒、ストレス、老化などが活性酸素(活性化された酸素)を発生させる原因となります。
通常、体はこれに対する防御機構を持っており、活性酸素の消去と障害の抑制や修復を行っています。これを抗酸化力といいます。
ところが、活性酸素の産生とそれに対する抗酸化力のバランスがくずれることがあります。これを「酸化ストレス」と呼んでいます。
緑内障もその一つです。
私たちの行った研究で、酸化ストレスが高い(抗酸化力が低い)ほど神経細胞が障害されやすく、緑内障が重症化しやすいというデータが出ています。
そこで、酸化ストレスを軽減する食品素材を探しました。
その中で着目したのが、ミカンの皮に多く含まれるヘスペリジンというポリフェノールです。
ヘスペリジンには、酸化ストレスを抑制する作用があることがわかっています。それが緑内障にどのように作用するか、検証しました。
ミカンの皮の成分が視神経細胞を保護
東北大学が行ったのは、次のような実験です。
①ヘスペリジンの抗酸化力
マウスの網膜神経節細胞を培養し、酸化ストレスをかけた上で、酸化ストレスを抑制するさまざまな食品素材を加えました。
すると、その中でヘスペリジンが最も神経細胞死を抑える作用が強いことがわかりました。
②緑内障マウスへの効果
人工的に緑内障にしたマウス(緑内障モデルマウス)の眼球内にヘスペリジンを投与して、網膜の神経節細胞の数を数え、どれくらい酸化ストレスが抑制されたか調べました。
その結果、ヘスペリジンを投与した緑内障モデルマウス群は、投与しない緑内障モデルマウス群と比べて、網膜神経の細胞死が2倍以上、抑えられたのです。

次に、ヘスペリジンによって網膜の酸化ストレスがどれくらい抑えられるかを調べました。
緑内障モデルのマウスに酸化ストレスを加えると、ヘスペリジンを投与した群は、投与しない群に比べて、網膜の酸化ストレスが約4倍、抑えられました。

この研究によって、ヘスペリジンが神経細胞を酸化ストレスから守り、緑内障の発症や進行を抑える可能性があることが示唆されました。
目は、つねに紫外線にさらされており、酸化ストレスを受けやすいところです。緑内障を発症し、神経細胞が障害されると、神経細胞は再生されず、どんどん数が減ってしまいます。
しかし、ミカンの皮を食べて酸化ストレスを防いでいれば、緑内障を予防したり、進行を抑えたりする可能性はあると思います。
安価に手に入るミカンの皮で、少しでも緑内障の進行を遅らせることができたら、こんなにいいことはありません。ぜひお試しください。
檜森紀子
2004年秋田大学医学部卒業。2007年東北大学眼科に入局し、東北大学病院や気仙沼市立病院で眼科一般を研修。2009年東北大学大学院医学系研究科へ入学し、「酸化ストレスと緑内障」をテーマに研究を開始。2013年東北大学大学院医学系研究科卒業、以降現職。