みかんの皮とヨーグルトを組み合わせようと考えた理由
ミカンの皮とヨーグルトを組み合わせたら、花粉症の症状緩和に効果が期待できるのではないか—。
この発想が生まれたのは、もともと私の研究室では、ミカンの皮に含まれる成分と、牛乳に含まれる成分、それぞれに抗アレルギー作用があることを確認していたからです。
アレルギー症状に対するミカンの皮の有用成分は、ノビレチンというフラボノイドの一種です。
ノビレチンは、シークワーサーやポンカン、温州ミカンなどカンキツ類の皮に含まれる成分で、抗炎症作用、脂肪蓄積抑制作用などがあることが報告されています。
アレルギーを抑制するのは、抗炎症作用によるものです。
一方、牛乳に含まれるたんぱく質の一種、β‐ラクトグロブリンにも、抗アレルギー作用があることが確認できています。
そこで私の研究室では、この二つを組み合わせると、それぞれ単独で摂取したときと比べて効果にどのような違いが出るのか、研究することにしました。
まず行ったのは、培養細胞での実験です。
アレルギー症状は「脱顆粒」といって、細胞からヒスタミンという成分が放出されることによって起こります。
ノビレチンやβ‐ラクトグロブリンを細胞に投与すると、この脱顆粒が抑制されるのです。
みかんの皮とヨーグルト両方食べたら、くしゃみの回数が激減
今回の実験では、ノビレチンとβ‐ラクトグロブリンの両方を投与すると、それぞれ単独で投与したときよりも、脱顆粒の抑制効果がぐんと高まることが確認できました。
次に、スギ花粉によるアレルギー症状を発症させたマウスに、ミカンの皮とヨーグルトを食べさせて、くしゃみの回数の変化を調べてみました。
すると、ミカンの皮だけを食べたマウス、ヨーグルトだけを食べたマウスでもくしゃみの回数は幾分減ったのですが、両方を同時に食べたマウスはその回数が激減しました。
みかんの皮ヨーグルトの、花粉症に対する相乗効果を実験で確認

目のかゆみが大幅に解消!スギ花粉にも効果を期待

さらに、愛媛大学医学部附属病院眼科学講座白石教授・原准教授のご協力の下、ヒトでも実験を行いました。
スギ花粉にアレルギーを持つ人26名に、花粉を点眼して結膜炎を起こし、ミカンの皮入りヨーグルトを1日1回、150㎖摂取してもらって、症状の変化を見たのです。
その結果、2週間後には、目の充血がほとんどなくなり、眼球結膜の温度上昇も有意に抑えられていました。
これらの研究から、ミカンの皮とヨーグルトを同時に摂取すれば、花粉症の症状改善に非常に高い効果が期待できるといえるでしょう。
アレルギーが起こる機序は同じなので、スギ以外の花粉にも効果はあるはずです。
これは花粉症で悩む多くのかたの、救世主になり得るのではないでしょうか。
この研究を基に、愛媛大学では学生が中心となって、地元企業とともにミカンの皮入りヨーグルトの商品開発を行いました。現在、四国のスーパーやコンビニで販売されていて、年間約20万本を売り上げています。手軽に摂取できて味もよいので、お勧めです。
簡単手作り!作り置きもできる「ミカンの皮ヨーグルト」の作り方

アトピー性皮膚炎や認知症にも効果が期待
ミカンの皮入りヨーグルトは、家庭でも簡単に作ることができます。
作り方は、ミカン1個分の皮をぬるま湯でよく洗い、150gのヨーグルトとともにミキサーにかけるだけ。
皮と一緒に、ミカンの果肉や果汁を加えてもOKです。お好みで、砂糖やハチミツなどの甘味を加えてもかまいません。
ミカンの皮はできるだけ細かく砕いたほうが、口あたりがよく飲みやすいです。ノビレチンは熱を加えても壊れないので、ミカンの皮を煮て軟らかくしてからミキサーにかけてもよいでしょう。
飲むのは1日1回で十分です。即効性があるので、花粉症の症状抑制には、外出する30分前に飲むのがお勧めです。
ただし、牛乳アレルギーの人は飲まないでください。
花粉症以外の人にもおすすめ!
実は、ヒトでの実験を行ったさい、被験者の中にアトピー性皮膚炎の人がいて、「ミカンの皮入りヨーグルトを飲んでいる間はアトピーの症状も緩和していた」という声がありました。
そこで、アトピー性皮膚炎を発症させたマウスにミカンの皮入りヨーグルトを飲ませたところ、症状が有意に軽減されるという結果が得られました。
今後、ヒトのアトピー性皮膚炎に対する効果も、研究を進めていく予定です。
また、ノビレチンには認知機能改善効果があるともいわれています。おそらく、これも抗炎症作用によるものでしょう。脳の中の炎症を抑えることで、認知機能の低下が抑制されると考えられます。
ミカンにはノビレチンのほかにも、認知機能改善効果のある成分や、骨粗鬆症の改善効果が期待できる成分など、多くの機能性成分が含まれています。
花粉症の人だけでなく、高齢者のかたにも、積極的にミカンを摂取してほしいと思います。
解説者のプロフィール

菅原卓也
愛媛大学生命機能学専攻健康機能栄養科学特別コース教授。食品の機能性をヒトレベルにおいて解明し健康維持に寄与することをミッションに掲げた愛媛大学大学院農学研究科附属食品健康科学研究センター・センター長。
食品機能学とは、食べ物に含まれる成分が動物細胞や実験動物、さらにはヒトの健康にどう影響するかを調べる学問分野。
食品によってヒト細胞の機能が高まった場合、機能性食品の開発につながることから、今、最も熱い注目を集める研究者でもある。
「みかんの皮」が花粉症治療の救世主に