解説者のプロフィール

石井正則
1980年、東京慈恵会医科大学卒業。84年、同大学院修了とともに、米国ヒューストン・ベイラー医科大学・耳鼻咽喉科へ留学。東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科医長、同大学准教授を経て現職。日本耳鼻咽喉科学会評議員、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙医学審査会委員。スタジオ・ヨギー公認ヨガインストラクターとしても活動中。
『耳鳴りがスッキリする呼吸がわかった』(マキノ出版)など著書多数。最新刊『やってはいけないヨガ』(青春出版社)が12月19日刊行。
医師引退の危機をヨガに救われた
ストレスは、老若男女の自律神経を蝕みます。30年以上にわたって耳鼻咽喉科の医師をしていますが、近年、ストレスによる「耳鳴り、めまい、難聴」を訴える患者さんが急増しています。
過度な競争主義、成果主義が社会に蔓延し、適切なブレーキをかけられない人、ブレーキをかけること自体をストレスに感じる人が増えているのだと考えられます。
ストレスで心身が緊張すると、交感神経が優位になります。すると、血圧の上昇、筋肉のコリ、便秘や下痢など腸の不調……とさまざまな不調が出るのですが、人によっては特に耳に不調が現れ、耳鳴りやめまい、難聴になるわけです。
そういった症状を改善するには、まずは心身をリラックスさせることですが、リラックス法の1つとして私が10年以上前から勧めているのが「ヨガ」です。
ヨガをすると、心身がリセットされ、自律神経が安定します。他のどんな運動にも、ヨガほどの効果はないでしょう。

アメリカではヨガが医療現場に急速に浸透している!
私が、このことに気づいたのは、自身の体験があったからです。2005年当時、私は激務による疲労やストレスで、突然、両腕が神経麻痺になってしまいました。
担当医は「神経が死んでいる」「もう医者はできない」と言う始末。ところが恩師の紹介で入院した病院で、リハビリにヨガを勧められ、ダメでもともとで試してみたら……なんと少しずつ腕が動くようになり、9カ月程度で完全回復したのです。
ヨガに救われた私は、その後、ヨガのインストラクターの資格を取得。ヨガスタジオはもちろん、勤務している病院で院内ヨガの教室を開いたり、うつ病の専門クリニックに出張指導に伺ったりもしています。
ちなみにアメリカでは、200以上の病院が本格的に医療の中にヨガを取り込んでおり、ヨガが医療現場に急速に浸透しています。この流れは今後、アメリカに限らず世界的に拡大していくでしょう。
副交感神経を刺激するのにお勧めの呼吸法
ヨガが自律神経に効くいちばんのポイントは、呼吸法です。ヨガにはさまざまな呼吸法がありますが、特にお勧めなのは、「吸う、止める、長く吐く」という流れの呼吸法です。
吸った息を一度止めると、瞬間的に血圧が上がります。すると「血圧を下げなければ」と血圧のセンサーが働き、副交感神経が反応。その後、吐くことで、副交感神経をうまく刺激することになるのです。
ただ吸って吐くだけでも、交感神経と副交感神経を順に刺激できますが、より効果的に自律神経を整えたいかたは、ぜひお試しください。コツは「2拍で吸う、2拍止める、4拍で吐く」のようにリズムよく行うこと。楽なスピードで行いましょう。
何千年も前にヨガを始めたインド人たちは、自律神経などという言葉もしくみも知らなかったでしょう。それにもかかわらず、ヨガの作用が医学的な理屈にかなっていることには、ほんとうに驚かされます。
「くつろぎのポーズ」は究極のポーズ
「くつろぎのポーズ」は、ヨガの究極のポーズです。深い腹式呼吸が自然に導かれ、さらに、意識が自分の内側へと向かうため、最上のリラックス効果を得られます。
ヨガを行う際は、このポーズを必ず最後に取り入れます。10分以上かけるのが理想。途中で眠くなったら、寝落ちてしまってかまいません。
ヨガは、簡単な動きと呼吸法の組み合わせです。けっして無理をせず、自分のペースで正しく行えば、効果的に自律神経をケアできます。多くのかたに取り入れていただきたいと思います。
