
ホルモン分泌が促され皮膚の代謝が改善
女性ホルモンと呼ばれるエストロゲン、男性ホルモンと呼ばれるアンドロゲンは、女性らしさや男性らしさに加え、若さや美しさにも深く関わっています。更年期の体の変化を考えればわかるように、これら性ホルモンのバランスは、体調にも大きく影響します。
そして、ホルモンの分泌は歩くことによっても盛んになります。ですから、ウォーキングを楽しむ習慣は、ホルモンバランスの面からみても、健康の維持、増進にとてもよいと言えるでしょう。
男性ホルモンのアンドロゲンは、主に精巣という男性特有の性腺から分泌され、男らしさを作り出しています。しかし、このホルモンは、女性の卵巣や副腎皮質からも分泌されています。
よく歩くことでホルモンの分泌が盛んになると、アンドロゲンもスムーズに供給されます。アンドロゲンには、毛根にある皮脂腺(皮脂を分泌する腺)に働きかけて、皮脂の分泌を促す働きもあります。その作用で肌がしっとりするのです。
皮脂と聞くと、多くの女性が、肌のベタベタやテカリなどのマイナスイメージを抱くかもしれません。しかし、皮脂にはそもそも肌に潤いを与え、美しく整えるというメリットがあります。自分の足でよく歩くことには、隠れた美容効果があるのです。
中年期を過ぎると乾燥肌になりやすい
皮脂には、肌に潤いを与えるだけでなく、皮膚を守るバリアとしての働きもあります。皮脂の分泌は、年齢とともに減っていくので、特に中高年では、春や秋の乾燥肌に注意が必要です。
肌の乾燥した状態が続くと、皮膚がざらざらするだけでなく、ひび割れが起こったりしがちです。
また、皮脂の減少が原因となる皮脂欠乏症(または乾皮症)という病気があります。これは、皮脂が足りないために皮膚が水分を保てなくなり、乾燥してしまうものです。
皮脂欠乏症の人は、足のかゆみなどに悩まされ、悪化すると湿疹ができたりします。
皮脂の減少は、美容の大敵であるだけでなく、肌の健康上も注意したいシグナルなのです。
もちろん、若い頃からかさかさ肌に悩まされる人も少なくありません。皮脂欠乏症も、本来は中高年に多い病気でしたが、最近は若い世代にも増えています。
かさかさ肌が続いている人は、運動不足かもしれません。積極的に歩くことで、体質の改善を考えてもよいのではないでしょうか。

「最近、肌がキレイになったわね」
アトピーの一因となるかさかさ肌を改善
皮脂のバリヤー機能には、紫外線から皮膚を守る作用もあります。これは、短期的にはシミやそばかすを、長期的には皮膚ガンの発生を防ぐことに役立っています。
さらに、病原菌やアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が皮膚に付着しても、皮脂の膜の上に乗っているだけなら、簡単に洗い流すことができます。
ダニ、カビ、花粉など、アレルゲンにはさまざまなものがありますが、その侵入を防いでくれる皮脂は、アレルギー症状の予防にも一役買っているわけです。
皮膚に生じるアレルギー性疾患としては、アトピー性皮膚炎が代表的です。そして、アトピー肌の大きな特徴は、皮脂が少ないかさかさ肌です。
ですから、皮脂の分泌が盛んになれば、アトピー特有のかさかさ肌をしっとりさせることにもつながります。
歩いて皮脂の分泌を盛んにすることは、肌にとっていいことずくめだと言えるでしょう。

皮脂の分泌は血管の掃除になる
皮脂腺から分泌される脂肪が減ると、肌のトラブルの原因になるだけでなく、体にとって別のデメリットも考えられます。
体内の脂肪分は、ウォーキングなどの運動で燃焼します。歩いて余分な脂肪を燃やすことは、当然、メタボなどの生活習慣病を遠ざけるのに有効です。
そして、歩けば全身と皮膚の血行がよくなり、新陳代謝が促されます。すると脂肪は、運動するためのエネルギーとして消費されるほか、毛穴を通じて皮脂腺からも排せつされます。
この皮脂の分泌は、個人差がありますが、一般に1日1~2gと言われます。それほど多くはありませんが、この皮脂の分泌も、内臓や血管の壁にたまった脂肪分を減らすうえで大事な働きです。皮膚からの脂肪の分泌は、健康な脂質代謝(利用と排せつ)の一環でもあるのです。
おなかやあごに多少脂肪がたまっても、外見が少し気になる程度で、大きな障害はありません。しかし、血管の壁に過剰に脂肪がたまると問題です。血管の老化を示す動脈硬化が進みやすくなるからです。特に心臓を養っている動脈や、脳に張りめぐらされている動脈の壁で動脈硬化が進むと、心臓病や脳卒中を引き起こす危険性が高まってしまいます。
歩くという運動には、体内の脂肪を燃やして減らすと同時に、皮脂腺から分泌されるべき皮脂の分泌を促すことによって、体を外側からも内側からもきれいにする、素晴らしい効用があるわけです。
解説者のプロフィール

徳田安章
1930年、長野県生まれ。信州大学医学部助教授、東京医科大学教授を経て、その後1994年から長野県松本市で徳田医院院長を務める。著書に、『アトピー性皮膚炎に負けたくない人へ』(東洋出版)、『皮膚と全身』(金原出版)などがある。