「1日8000歩・速歩き20分」が多くの病気の予防に効果的と分析

500人のほぼ丸1日の活動を記録・分析した
群馬県中之条町は、私の生まれ故郷です。この町で、歩きと病気予防の関係について、65歳以上の住民、約5000人を対象に調査を始めたのが2000年のことです。「中之条研究」と呼ばれるこの調査は、今年で14年になります。
毎月初旬の3日間は必ず「身体活動計」(左下のコラム参照)のデータを回収するために、私は中之条町を訪れます。そして、毎年6〜7月は、町の住民健診を行っています。昨年にも7月に中之条町に行き、健康診断を行って、データを回収してきました。
中之条研究では、最初に高齢者5000人に対して、日頃の運動の頻度や時間、生活の自立度、睡眠時間、食生活などに関するアンケート調査を行いました。
そのうちの2000人に対しては、詳細な血液検査や遺伝子解析を行いました。
さらに、そのうちの500人には、身体活動計を入浴時以外は常に身に着けてもらい、毎日の歩数や速歩きを行った時間を計測しています。
これらの客観的なデータから、1日当たり8000歩を歩き、その中に20分の速歩きが含まれている「1日8000歩・速歩き20分」が、多くの病気の予防に効果的だと導き出したのです。
先述のように、私たちが月に1度、身体活動計のデータを回収しますが、その回収率は99%です。回収できない1%も転居や入院といった事情ですから、中之条町の皆さんのご協力に、ほんとうに感謝しています。
世界でも類を見ない結果に、海外でも評判
協力していただいている人には、身体活動計のデータを紙に印刷してお渡ししています。それを以前のデータと見比べて、「10年前よりも活動量が増えた」と自慢されている光景を目にすることもあります。
中之条町は、この調査を町民の健康づくりに役立てています。ここ数年は、町長や若い人たちも、調査に参加してくれるようになってきました。
こうして、中之条町では、多くの人が「1日8000歩・速歩き20分」を実行しています。その結果、高血圧や糖尿病が改善している人が多く見られます。
調査に参加している人と参加していない人を比較すると、参加者の医療費が3割も低くなっています。これは、身体活動計のデータを見てご自分の1日の活動を振り返ることで、「もっと歩こう」と意欲が湧き、生活が改善された結果だと考えられます。
これほど長い追跡調査も、データの回収率も、また医療費の軽減も、世界で類を見ない結果で、海外の学会で発表した際には「中之条町の奇跡」と呼ばれました。
歩数が増えれば自然に速歩き時間も増える
この調査の過程で、私たちは東京などの都市部と、秋田県、群馬県中之条町などで高齢者の歩行能力を測定しました。すると、都市部に住む高齢者のほうが、速く歩くことができる能力が高く、ふだんの歩く速度も速いことがわかりました。
都市部は交通網が張り巡らされているため、多くの人は自宅から駅やバス停までを歩いて移動し、乗り換えなどでも歩くので、日常生活で歩く機会が多いためと考えられます。
一方、農村部では、車を使って移動することが多く、歩く機会はぐっと減ります。乗り換えなどで急ぐこともないので、速歩きをする必要がありません。
このように、生活環境や習慣は、歩数と歩く速さに表れてきます。特に農村部の人は、できるだけ歩いて出かけるように意識するとよいでしょう。
家で1日過ごすと、4000歩に届かず、歩く速度も遅くなります。一方、1時間ほど外出するだけで、4000〜6000歩に達します。
中之条研究では、歩数が増えるほど、速歩きをする時間も自然に増えることが明らかになっています。毎日歩いて出かければ、歩数が増えて、速歩きの時間も増え、病気を防げます。
また、中之条町では「3つ趣味を持とう」をスローガンに、外に出かけることを推奨しています。そのように、歩くきっかけを作ることが、楽しく、長く続ける原動力になるのです。

中之条町で参加者とお話ししながら調査を行っている青栁先生(写真提供/上毛新聞社)