納豆の臭い成分"ピラジン"の健康効果

納豆はガンからO-157まで撃退
「納豆」は、煮大豆に納豆菌を植えつけて作る食品です。
納豆菌に豊富に含まれている酵素は、大豆たんぱく質や脂質を速やかに分解する働きがあります。ですから、納豆はとても消化がよく、大豆に含まれるたんぱく質の90%以上を体内に吸収できます。
ここで、納豆の主な薬効を挙げておきましょう。
●血液・血管を健康にする
大豆に含まれているレシチンやリノール酸は血液を浄化します。また、大豆のたんぱく質は血管の弾力性を保ちます。
さらに、納豆に含まれるピラジンというにおい成分とナットウキナーゼという酵素には、後述するように血栓(血の塊)ができるのを強力に防止する働きがあります。その結果、動脈硬化や心臓病、脳卒中、高血圧などが防げるのです。
●病原菌を撃退する
納豆菌には腸内の病原菌の発育を抑える抗菌作用があり、ブドウ球菌・チフス菌・赤痢菌などのほか、病原性大腸菌O-157も撃退することが認められています。
●ガンを予防する
大豆には、ミネラルである「セレン」をはじめとしたガンを防ぐ成分が含まれています。また、納豆に豊富な食物繊維は、腸内の老廃物を吸着して体の外に排せつするため、大腸ガンの予防に有効です。
日本の男性が欧米の男性に比べて前立腺ガンが少ないのは、日本人が大豆をよく食べることが一因とされています。大豆に含まれる女性ホルモンに似た成分が、前立腺ガンの予防に役立つのです。
●骨粗鬆症を予防する
骨粗鬆症は、閉経後に女性ホルモンが不足して骨からカルシウムが抜け出し、骨にスが入ったような状態になる病気です。納豆に含まれるビタミンKは、カルシウムを骨に沈着させるたんぱく質を活性化させ、カルシウムの骨への定着を助けます。
ただし、心臓病などでワーファリンという薬を飲んでいる人は、納豆のビタミンKが薬の効果を阻害するため、避けてください。
2つの特効成分、ピラジンとナットウキナーゼが血栓を予防する
納豆の数々の作用の中でも、血栓を防ぐ作用は、薬に勝るとも劣らないパワーがあります。
ケガなどで血管に傷ができると、血栓ができて出血を止め、破れたところを修復します。いったん血が止まった後、不要となった血栓は酵素が溶かします。
血栓の働きは、血管の傷を修復するうえでたいへん重要です。
その一方で、血栓は脳梗塞や心筋梗塞などの引き金となる困った存在でもあります。血栓ができる最大の危険因子は動脈硬化です。しかし、動脈硬化が進んでおらず、血管に異常がなくても血栓ができやすい体質の人もいます。
このような血栓に対し、納豆に含まれるピラジンとナットウキナーゼは、できるべきでないところに血栓ができないように働きます。
夕食に納豆を食べると効果的
血管が傷つくと、血液を固める作用のある血小板が秒速で集まって固まります。集まった血小板が血栓の骨組みを作ると、血栓をより頑丈にするために、血液を固める成分が働き、血栓をがっちりと固めるのです。
こうして血栓ができるのを防ぐのに、一番手で働くのがピラジンです。ピラジンとは食品の中のたんぱく質と糖が加熱されるときに生じるにおい成分です。熱々のご飯に納豆をかけたときの、あの独特の香りのもとです。
ピラジンは、血小板が集まろうとするのを阻害します。ですから、納豆のにおいをかぐだけでも、血小板が集まって血栓を作るのを防ぐ効果が期待できます。
ピラジンの血小板の凝集を抑える作用は、私の実験でも明らかになっています。実験では人間の血液から分離した血小板に、血小板を凝集させる働きのある物質を加えて、2つに分けました。
表に示したAはそのまま放置した血小板、Bは納豆から抽出したピラジンを添加した血小板です。Aの血小板が瞬く間に凝集していく一方、ピラジンを加えたBは血小板の凝集が明らかに抑えられているのがわかるでしょう。
朝にできやすい血栓を予防するには、日曜日の夕食に1パックの納豆

血栓ができている場合は、ナットウキナーゼが血栓を溶かします。ナットウキナーゼは、私たちの体の中にある、血栓を溶かす成分と同じ働きをするのです。
統計によれば中高年男性の脳梗塞、心筋梗塞が起こる時間帯は月曜の午前10時に集中しています。
血小板に粘り気が出るのは、夜中の2~3時です。そこで、朝にできやすい血栓を予防するには、日曜日の夕食に1パックの納豆を食べておくとよいでしょう。
納豆のにおいをかぐだけでも血栓を作るのを防ぐ作用が期待できる

納豆のにおいには、血小板が集まるのを防ぐ作用がある
解説者のプロフィール

須見洋行
1974年、徳島大学大学院医学研究科修了(医学博士)。倉敷芸術大学科学大学生命科学部生命科学科教授。専門は血栓の研究。アメリカ・シカゴ大学で研究中、血栓溶解に働く「プロウロキナーゼ」「ナットウキナーゼ」を発見した。