誰にでもできるストレス対処法がマインドフルネス呼吸法

今の自分の体と気持ちに気づく
私はストレスに対処するための心のエクササイズ「マインドフルネス」を、たくさんのかたにお伝えしています。
マインドフルネスは、「今この瞬間に意識を向けて、自分の体の感覚と気持ちに気づく」ための方法です。欧米では、医療や教育などの現場で広く実践されており、効果について多くの研究報告があります。
ビジネスシーンでも活用されており、アメリカの最大手インターネット検索サービス会社、Googleでは、社員研修に導入し、集中力や創造力を高めるのに役立てているそうです。
マインドフルネスにはさまざまな技法がありますが、私がお伝えしている「呼吸のマインドフルネス」(文中では「今ここ集中呼吸」と呼びます)は、誰にでもできて効果が高いので、ぜひお勧めします。
やり方は、とてもシンプルです。
「今ここ集中呼吸」は、両手を大きく動かしながら行いますが、目的は、「今の体の感覚と気持ち」に気づくことにあります。今ここ集中呼吸をしながら、体が今どんな感覚か、気分は今どうかに気づいていきます。
例えば、「頭が重い」「左の肩が上がらない」「胃が重たい」「なぜかイライラする」などです。
うつっぽくなってしまう人や不安になってしまう人の多くは、過去へのとらわれや将来への不安に縛られていることも少なくありません。過去と未来で心がいっぱいになって、「今ここ」がすっぽり抜けてしまっているのです。
マインドフルネスの今ここ集中呼吸を続けて、「今ここ」の体の感覚や気持ちに気づくようになると、将来に対して過剰に心配になったり、過去を引きずったりすることが軽減されます。
1人でする場合には、気づいたことをノートにつけることをお勧めします。呼吸法を行った日付と時間、体の感覚、気持ちを書き留めておきます。「○月○日 午前10時 体の感覚→頭が重い。気持ち→疲れていてちょっとうつっぽい」というように、簡単でかまいません。
すると、「こういう状態のときは休んだほうがいいなあ」とか、「今日は調子がいいから、棚上げにしていたあのことをやろうかな」というように、自分を上手にコントロールできるようになるのです。
マイナスの感情に飲み込まれなくなる
もう1つ、「今ここ」の自分に気づくと、マイナスの感情に飲み込まれにくくなります。
例えば、嫌なことがあったとしましょう。そんなとき「あなた、ちょっと怒ってない?」と言われて、「怒ってないわよ!」と怒鳴り返したりすることはありませんか。つまり、口では「怒っていない」と言いながらも、怒りの感情に飲み込まれてしまっているわけです。
そんなときも、「ああ、自分は怒っているんだな」と「今ここ」の自分に気づくことができれば、少し冷静になれて、心を疲れさせることが少なくなります。
うつっぽくなりやすい人は、能力があってがまんする力が強い傾向にあります。それが高じて、「マイナスの感情に気づかないようにしよう」と無意識に心が働く癖があります。
例えば、上司に仕事を大量に頼まれたとします。そんなときも、「こんなにたくさん頼まれて不安だ」「嫌だ」という感情に無意識のうちに気づかないようにしているんですね。「私はまだだいじょうぶだ、まだやれる」とがまんしていることが、心の中に澱のようにたまって、あるとき爆発してしまうのです。
マインドフルネスが、うつ病の回復や予防に効果的なのは、自分の今の状態に気づくことができるようになるからです。
「今私は、すごく疲れているんだ」と気づけば、無理をせず少し休めばいいわけです。「この人に腹を立てているんだ」とわかれば、1つの選択肢として、少しの間、その場所から離れるということもできます。少し距離をおいて、「この人とはこういうふうに接すればいいんだ」と対応策を考えることもできます。
こんなふうに、「今ここ」に気づくことができるようになると、ストレスに上手に対処できるようになるので、心に疲れをためこみにくくなります。
慢性的な痛みにも幼児教育にも有効
今ここ集中呼吸は、ほぼどんな人にも有効です。健康な人のストレス対処にはもちろん、抑うつ症状(気分が沈んで晴れ晴れしないこと)があり、落ち込んでいる人や、慢性的な痛みがある人にもよいという報告があります。
大人はもちろん、子どもにもお勧めです。私の経験では、4歳くらいからじゅうぶんできると思います。続けることで集中力が高まり、お母さんの話がよく聞けるようになったり、勉強ができるようになったりするということで、欧米では幼児教育から導入している例があります。
現代はストレス社会です。呼吸のマインドフルネス「今ここ集中呼吸」は、誰でも安全、安心に続けられるストレス対処法です。習得できるとストレスにしなやかに対処することができます。ぜひご活用ください。
心が晴れる、集中力が高まる呼吸のやり方

いしい ともこ
心理学博士。日本認知療法学会理事、日本不安障害学会評議員。欧米では多くの実証的研究報告のある、ストレス軽減法の1つである「マインドフルネス」を、米国の精神療法家のマーシャ・リネハン博士から直接指導を受ける。マインドフルネスを活用したDV被害親子のためのケア介入プログラムや、子育て中の母親に対するストレス対処法の確立にも取り組んでいる。監訳書に『家庭と学校ですぐに役立つ 感情を爆発させる子どもへの接し方』『パートナー間のこじれた関係を修復する11のステップ』(ともに明石書店)などがある。
意識を「今ここ」に集中させる「マインドフルネス」という技法が、欧米の医療・教育現場に導入されています。ここでは、日本の心理学者に、誰にでもすぐ効くストレス対処法として紹介してもらいました。