2週間以上続くセキは、もはやカゼではない!
空気が乾燥するこの時季、ゴホゴホとセキ込んでいる人を、よく見かけます。
ただのカゼであれば、慌てて医者にかかる必要はありません。
一方で、カゼのように見えて実はそうではないケースもあります。
見分けるポイントは、ズバリ、三つあります。
(1)セキが2週間以上続いている
(2)眠れないほど激しいセキが、3日以上続いている
(3)ただのカゼと違うような自覚がある(特に高齢者の場合)
(1)から(3)のいずれかに該当する場合は、ただのカゼではない可能性が高いと思われます。
早めに病院を受診してください。
(1)セキが2週間以上続いている
まず、(1)について説明します。
セキが2週間以上続くなら、それはもはや、カゼではありません。
健康な人が普通のカゼをひいただけなら、薬を飲まなくても自分の免疫力で、2週間もしないうちに、自然と治るものです。
では、普通のカゼとは、どういった状態を指すのでしょう。
カゼの原因となる病原体は、その約8~9割がウイルスです。
細菌性のカゼは、残りの約1〜2割に過ぎないので、一般的にカゼといえば、ウイルスが原因ということになります。
鼻や口から入った空気が肺に達するまでの通り道を、「気道」といいます(下記図参照)。
呼吸のしくみ

気道のうち、気管の入口より上の、鼻や口に近い部分が「上気道」。
気管から先、肺までの部分を「下気道」といいます。
普通のカゼというのは、ウイルスが上気道の部分で炎症を起こした状態です。
医学用語で「上気道炎」と呼ばれます。
ウイルスは、それ単独では増殖できません。
細胞に入り込んで感染し続けないと生き残れないため、例外を除けば、増殖力はそう強くないのです。
加えて、下気道ではさまざまな防御システムや免疫機能が働いています。
異物はセキやタンによって反射的に吐き出され、奥へ進めません。
よってウイルスは、2週間もしないうちに、自然と消滅するのです。
セキぜんそく
では、普通のカゼではない、セキが長く続く病気には、どういったものがあるでしょうか。
代表的なものは肺炎ですが、近年になり非常に多く見られるのが、「セキぜんそく」です。
これは、気道の粘膜に、ウイルスや細菌以外の原因で炎症が起こり、粘膜が敏感になった結果、ちょっとした刺激にも反応してしまう状態です。
普通ならなんでもない程度のほこりや湯気、冷気、花粉、香りなどに反応して、セキ込んでしまいます。
「気道の過敏症」といえるかもしれません。
アレルギー体質の人に起こりやすいことがわかっています。
セキぜんそくは、アレルギー性の呼吸器疾患でよく知られる、気管支ぜんそくの一歩手前の状態です。
原因や悪化の要因もほぼ同じで、ほうっておくと、気管支ぜんそくに移行します。
「カゼが長引いているだけ」、「花粉症がひどい」などと思い込んでいるうちに、セキ込みが止まらなくなり、悪化するケースが多く見られるのです。
しかし、早期に適切な治療を受ければ、気管支ぜんそくに至る前に治すことが可能です。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)
セキが長引く病気としては、ほかに、COPD(慢性閉塞性肺疾患)も挙げられます。
COPDの原因は、主にタバコです。
肺の機能が徐々に低下し、重症化すると呼吸不全に陥る、恐ろしい病気ですが、病初期には自覚症状があまり現れません。
そのため、進行に気づきにくいのです。
喫煙の習慣があり、息苦しさを感じる人は、早めに専門医に相談しましょう。

(2)眠れないほど激しいセキが、3日以上続いている
見分けポイント(2)の、「眠れないほど激しいセキが3日以上続く」場合も、早急に病院を受診してください。
前述したセキぜんそくの発病初期かもしれませんし、マイコプラズマ肺炎や百日咳など、細菌による感染症の可能性もあります。
(3)ただのカゼと違うような自覚がある
高齢者は肺炎に注意!進行に気づかず重症化
(3)は、特に高齢者に注意してほしい、肺炎が疑われる見分けポイントです。
日本人の死因の第3位が肺炎。
そして、肺炎で亡くなる人の9割以上が、65歳以上の高齢者なのです。
肺炎は、通常38度以上の高熱を伴いますが、高齢になると、熱はあまり上がらなくなります。
また、セキ反射の機能低下により、異物が入ってきても即時にセキ込めずに、肺に入れてしまいます。
明らかな症状がないので気づかないうちに進行し、重症化してしまうのです。
「体がひどくだるい」「食欲がない」「尿失禁した」などといったサインを見逃さず、いつものカゼと違うと感じたら、すぐに病院を受診しましょう。
解説者のプロフィール

大谷 義夫
池袋大谷クリニック院長。1989年群馬大学医学部卒業後、九段坂病院内科医長、東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、同大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授、米国ミシガン大学留学などを経て2009年に開院。医学博士。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医。新聞、テレビなどメディア出演も多く、呼吸器内科のスペシャリストとして知られる。近著に『マスクつけるだけダイエット』(扶桑社)がある。