中高年者にとって眼を鍛える「視覚トレーニング」はとても重要

小さな段差で転倒は視覚機能の低下が原因
50歳を過ぎると、「新聞や本の文字が読みにくい」「夕方になるとぼやけて見えにくい」といった、眼の見え方に不調を抱える人が多いでしょう。
眼だけでなく、物忘れが増えてきたり、家事や外出がおっくうになったりと、さまざまな場面で老化を感じる機会が多くなってきます。
しかし、これらの老化現象は年のせいではなく、視覚機能の低下から起こっている場合が多いのです。適切な視覚ケアをしていないと、視覚機能は徐々に低下してきます。その上、加齢とともに眼を動かして作業をするという行為が減ってくるので、ますます視覚機能低下に拍車がかかるのです。
ですから、中高年者にとって眼を鍛える「視覚トレーニング」は、とても重要です。ぜひとも習慣化して、アンチエイジングに役立ててください。
特にお勧めなのが「眼球運動」です。
眼球運動とは、眼を目標のものに合わせる働きで、「追従性眼球運動」と「跳躍性眼球運動」の2種類があります。
追従性眼球運動とは、ものを眼で追うときの運動を指します。正確には、止まっているものをじっと見つめる、という動きも追従性眼球運動といいます。
跳躍性眼球運動とは、ある一点からある一点へ、視点を素早く移動させる動きを指します。例えば、駅などで待ち合わせをしたとき、大勢の中から、目的の人を探すときに使われます。人の顔を次々に見ていくときの、視線をジャンプさせるような動きです。
さらに、この眼球運動とかかわりが深い視覚機能に、調節力と両眼の協調機能があります。調節力は、見たものにピントを合わせる働きで、加齢とともに低下し、それが老眼につながります。
両眼の協調機能は、両眼を中央に寄せたり、左右に開いたりして、ものに視点を合わせる動きを指します。遠くにあるものと手元にあるものを交互に見るときなどに使います。例えば、教室で講師が書いたホワイトボードの字と、自分の手元の資料を交互に見るときです。
このように、眼球運動にはさまざまな働きがありますが、これらの機能が衰えると、仕事や生活に支障が出てきます。
特に、60代以降に多いのが、車の運転がぎこちなくなったり、歩いているときに小さな段差に気付かず転倒したりすることです。こうなると、外出することに不安を感じ、行動が消極的になります。
気持ちも消極的になって、寝たきりや認知症の原因になる可能性が高くなるでしょう。
垂れ下がったまぶたを引き上げる効果も
では、どのように眼球運動を鍛えればいいのでしょうか。眼球運動は、主に筋肉の動きによる機能です。
視覚機能を保持する六つの筋肉を鍛えれば、眼球運動は、年齢に関係なく改善できます。「眼の準備体操」や「眼球トレーニング」、「両眼の協調トレーニング」を行いましょう。
ここで、トレーニングを続けるポイントをお話ししましょう。
まずは、眼の準備体操を3分程度行ってみましょう。慣れてきたら、ほかのトレーニングを加えるようにします。
視覚トレーニングは、続けることが重要です。まずは1ヵ月続けることを目標にします。たいていは3ヵ月ほどで眼の状態が改善し、それに伴い、視覚機能の低下から起こる、さまざまな悩みが解決するでしょう。
老眼鏡なしで小さな文字を読めるようになり、読むスピードもグンと上がるなど、老眼が改善したり進行が止まったりします。眼の血流がよくなるので、眼精疲労やかすみ目、飛蚊症(目の前を蚊が飛んでいるように見える眼病)、ドライアイ(目を保護する涙液が不足し、目の表面が乾いてしまう病気)なども改善します。加齢で垂れ下がったまぶたを引き上げる効果も期待できます。
記録をつけることも効果的です。カレンダーに印をつけて、その日の眼の状態をメモしておくと、上達が一目でわかり、やる気が続きます。
視覚トレーニングは、これまで運動不足だった眼に、かなりの負荷をかけることになるので、眼に疲労を与えることもあります。視覚トレーニングの後は、眼を閉じたり、遠くを見たりして、眼を休ませましょう。
視覚トレーニングは、すぐに始められ、効果が出やすい簡単なトレーニングです。眼を使った全身のアンチエイジング、今日からしてみてはいかがでしょうか。
中高年以上は眼球運動を鍛えるのがポイント

解説者のプロフィール

北出勝也(きたで・かつや)
兵庫県生まれ。米国オプトメトリスト。視機能トレーニングセンター「Joy Vision」代表(神戸市)。兵庫県特別支援教育相談員。関西学院大学卒業後、キクチ眼鏡専門学校を経て、米国パシフィック大学へ。「ドクター・オブ・オプトメトリー」を取得。2009年、一般社団法人「視覚トレーニング協会」を設立。著書に、『1日5分!大人のビジョン・トレーニング』(講談社)、『学ぶことが大好きになる ビジョントレーニング』(図書文化社)などがある。