解説者のプロフィール
最近テレビで 紹介し大反響!
高血圧は、自覚症状が出ることが少ない病気です。
いつの間にか進行し、症状が出たときには、すでに命にかかわる危険な状態という場合もあります。
高血圧が、「サイレントキラー」と呼ばれるのはこのためです。
高血圧が忍び寄ってくるのを防ぐには、日々の生活において、さまざまな工夫を重ねる必要があります。
私はこれまで、血圧を下げるセルフケアを、数多く提案してきました。
その中で、最近テレビで紹介して大きな反響があった方法が、「ブドウジュースを飲む」というものです。
この方法を勧めるようになったのは、だいぶ以前に、あるテレビ番組関係者から問い合わせを受けたのがきっかけでした。
「先生、ブドウジュースを飲むと血圧は下がりますか?」と、聞かれたのです。
文献を当たったところ、確かに海外に、そうした研究がありました。
しかし、他人の研究を報告するだけでは発言に責任が持てません。
自分で調べて確かめないと、テレビでいうことはできないと考えたのです。
血圧が本当に下がるのか、臨床試験を実施!
そこで早速、高血圧の患者さんにご協力をいただき、臨床試験を行うことにしました。
私が試したのは、次の四つです。
❶ 果汁100%ブドウジュース
❷ 同10%ブドウジュース
❸ 同100%オレンジジュース
❹ 焼きイモ
❶~❸のグループの人には、それぞれのジュースを朝昼晩の3回、200mlずつ飲んでもらいました。
1日に600ml飲むことになります。
ブドウジュースは、いわゆる白ブドウではなく、紫色の濃いブドウを使ったジュースです。
❹のグループの人には、ジュースと比較するため、やはり朝昼晩の3回、小ぶりの焼きイモを食べてもらいました。
ブドウ、オレンジ、サツマイモは、いずれもカリウムを多く含んでいます。
カリウムは、体内の余分な塩分を排出し、血圧降下に役立つミネラルです。
つまり、❶~❹のいずれも、血圧を下げる効果が期待できます。
患者さんには全員、24時間連続して測れる血圧計を装着してもらい、血圧の変動を記録しました。
調査期間は、1週間から10日ほどだったでしょうか。
結果、❸のオレンジジュースと、❹の焼きイモは、血圧降下作用は見られませんでした。
❷の果汁10%ブドウジュースでは、血圧が下がる傾向が、わずかに見られました。
ただし、有意差(偶然や誤差の範囲ではない差)は出ませんでした。
唯一、ハッキリと血圧降下作用が認められたのが、❶の果汁100%ブドウジュースです。
数値は大きくありませんが、有意差の出る形で血圧降下が確認されたのは、これだけでした。
こうした結果が出たことで、「ブドウジュースには、血圧降下に役立つ可能性が、確かにある」と、テレビで自信を持って話すことができたのです。

ブドウに含まれるポリフェノールの働き
ブドウジュースの血圧を下げる効果は、ブドウに含まれるポリフェノールの働きと考えられます。
ポリフェノールとは、植物に含まれる色素や苦み、渋み成分となる化合物の総称です。
さまざまな健康効果があり、近年注目を集めているのが、ポリフェノールの、血管内壁に対する作用です。
血管の内壁は複層構造になっており、血液に接する、最も内側の面を内膜といいます。
この膜を覆っているのが、血管内皮細胞です。
ここでは、NO(一酸化窒素)が産生されています。
NOには、血管を拡張する作用があり、血管が広がれば、自然と血圧は下がります。
ポリフェノールは、このNOの産生を促します。
つまり、間接的に、血圧を下げることに役立っているのです。
ブドウジュースを1日200mlがおすすめ
では、同じブドウ由来の、赤ワインではどうでしょう。
もちろん赤ワインにも、ポリフェノールが豊富に含まれています。
ただ、高血圧の改善という面からいえば、アルコールは多量に飲むと翌朝の血圧を上げるので、逆効果となってしまいます。
また、酒を飲み過ぎて肝臓に負担をかけては、元も子もありません。
私がジュースを勧める理由は、そこにあります。
ただ、ブドウジュースも、継続して飲むのであれば、1日に600mlは多過ぎるでしょう。
糖分のとり過ぎは、糖尿病や肥満など、別のリスクを招きます。
現実的な量は、せいぜい1日に200mlといったところです。
毎日コップ1杯を、習慣にしてみましょう。
先に述べたとおり、高血圧の改善には、さまざまな工夫の積み重ねが大切です。
薬に頼らず、生活習慣の見直しで血圧を下げるのであれば、よいといわれる方法を少しずつ、できる範囲で続けていくのが、遠いようで、いちばんの近道なのです。
渡辺尚彦
東京女子医科大学医学部教授・東医療センター内科医師。高血圧を中心とした循環器病が専門。1987年8月から連続携帯型血圧計を装着開始。以来、24時間365日、血圧を測定しており、現在も連続装着記録を更新中。「ミスター血圧」として知られる。『クスリを飲まずに、血圧を下げる方法』(廣済堂出版)など著書多数。