胃がムカムカする、胸やけがする。それは胃酸が原因かも
「胃がムカムカする」「胸やけがする」というと、病院ではすぐに胃薬を出す傾向があります。
特によく処方されるのが、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬・PPI(商品名=オメプラール、タケプロンなど)と、H2受容体拮抗薬・H2ブロッカー(商品名=ガスター、ザンタックなど)です。
H2ブロッカーは「ガスター10」という商品名で市販されているので、薬局で気軽に購入して飲んでいる人も多いのではないでしょうか。
これらの薬は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍など、胃酸の出過ぎで起こる病気には必要です。
しかし、現在は多用され過ぎで、胃酸を抑える必要がないのに飲んでいる人が少なくありません。
その影響で、体調をくずす人が増えているのです。
例えば、最近は胸やけなどの症状から、胃酸過多による逆流性食道炎と診断されるケースがよくあります。
ところが、これらの症状は、実は「胃酸が少ないことが原因」で起こっていることが意外に多いのです。
胃酸が少ないと、胃の中のpH(酸・アルカリの度合いを示す数値)が上がります。
すると、食事中と同じ状態になるため、食べ物を通そうと、胃の入り口(噴門部)の筋肉が緩みます。
その結果、胃酸が上がりやすくなり、胸やけなど、胃酸過多のときと同様の症状が起こるのです。
胃酸が出過ぎているのか、それとも少ないのかは、内視鏡で胃の中のpHを調べなければわかりません。
しかし、実際はそこまで行わずに、問診や食道の検査で「胃酸過多」と診断されることが少なくないのです。
胃酸が少ない人の傾向としては、女性ホルモンが減る40歳過ぎの女性、肉を食べると胃がもたれる虚弱タイプの男性などです。
60代になると約半数の胃酸が少なくなる!
ストレスや長期的な病気、過剰なアルコール摂取でも、胃酸は減りやすくなります。
さらに、60代になると約半数の人が、胃酸が少なくなるといわれています。
胃酸が少ないにもかかわらず、PPIやH2ブロッカーを飲むと、胃酸はさらに減り、体にさまざまな悪影響が現れます。
まず、胃酸が減ると、ウイルスや細菌などをブロックできなくなるため、ウイルス感染や食中毒を起こしやすくなります。
たんぱく質や脂質が分解できなくなって、消化不良も起こすでしょう。
そうなると、栄養が障害されるだけでなく、未消化物が腸に届き、それらが腐敗してガスが発生したり、発ガン物質に変化したりします。
当然、腸内細菌のバランスもくずれます。
腸には免疫の約7割が集結しているので、そこに異常が起こると、アレルギー性疾患や自己免疫疾患にもつながります。
具体的には、ぜんそく、アトピー性皮膚炎から、シェーグレン症候群(唾液や涙が出にくくなる症状)、全身性エリテマトーデス(体のさまざまな臓器が侵される病気)、甲状腺疾患、セリアック病(グルテン過敏症)、Ⅰ型糖尿病などが挙げられます。
さらには、栄養不足によって、精神面も不安定になります。
PPIやH2ブロッカーそのものの副作用には、再生不良性貧血、肝障害、腎不全、間質性肺炎(肺の間質組織に線維化が起こる病気)などがあります。
また、これらの薬を多用している人には、胃ガンも多くみられます。
PPIが末期腎不全を進行させるという論文も発表されています。
このように、薬による弊害は挙げれば切りがありません。
身近な胃薬といえども、決して安易に飲むべきではないのです。
ただし、現在これらの薬を飲んでいる人は、慌ててやめたりしないでください。
やめるなら、様子を見ながら、症状のあるときだけ薬を使うなど、徐々に減らすようにしましょう。
そして、薬を飲まなくても大丈夫な体づくりが大切です。
胃酸の少ない人の対処法

H2ブロッカーをやめたら逆流性食道炎と便秘が改善!
胃酸が少ない人は、食前に梅干しを食べたり、リンゴ酢を水で薄めて少量飲んだりすると、唾液や胃酸の分泌が促され、胃腸の動きがよくなります。
食事はよく噛んで、リラックスして食べると、唾液の分泌が促されます。
消化しにくいたんぱく質(揚げ物、乳製品など)は控えめにして、食後はすぐ横にならないでください。
他院で逆流性食道炎と診断されH2ブロッカーを飲んでいた70代の女性は、長年の湿疹と慢性便秘を訴え、私のクリニックに来られました。
そこで、生活改善と減薬を指導したところ、まず湿疹がキレイに治り、便秘も改善。
最終的には薬をすべてやめても、逆流性食道炎の症状が起こらなくなりました。
胸やけがしてH2ブロッカーを飲み続けていた30代の男性が、その症状がよくなるどころか、どんどん悪くなると来院されました。
薬をやめるように指導すると、約2週間で胸やけがケロリと治ったという例もあります。
皆さんも胃の調子が悪いからと、安易に薬に頼るのではなく、まずは生活改善から取り組んでみてはいかがでしょうか。
解説者のプロフィール

内山葉子
関西医科大学卒業。大学病院で腎臓内科・循環器・内分泌を専門に臨床・研究を行ったあと、北九州市に葉子クリニックを開設。自然医療や漢方などの補完・代替医療と西洋医学を統合的に行い、難治性の疾患の診療を行う。著書に『子供の病気は食事で治す』(評言社)など。