自律神経のバランスがくずれると血圧が上がる
オキシトシンは、近年、医学や脳科学の世界で大きな注目を集めています。
脳の視床下部(自律神経の調節を行う器官)から分泌されるホルモンで、出産時に陣痛を促したり、授乳中の母乳の分泌を促したりする働きがよく知られています。
さらに、オキシトシンには、ほかにも多くの効能があることが解明されつつあります。
妊娠中や出産後の女性だけではなく、妊娠していない女性や男性からも分泌されることがわかっています。
オキシトシンは、幸せな気分を高めるセロトニンや、やる気が出るドーパミンなどのホルモンの分泌を促します。
このため、オキシトシンは、「幸せホルモン」ともいわれているのです。
また、ストレスがかかったときに出るホルモンの分泌を抑制するので、オキシトシンが分泌されれば、ストレスに強くなります。
そればかりか、脳内麻薬といわれるエンドルフィンの分泌を促し、体の痛みを和らげるのです。
このように、実に多くの効能を持つオキシトシンですが、特に注目しておきたいのが、自律神経との関連です。
自律神経とは、内臓や血管などをコントロールしている神経で、交感神経と副交感神経の2種類があります。
交感神経は主に体が活動しているときに、副交感神経は主に休息しているときに働きます。
交感神経は、活動のアクセル役、副交感神経はブレーキ役と考えるとわかりやすいでしょう。
この両者のバランスがくずれると、体にはさまざまな不調が現れます。
現代人は、過労や睡眠不足に加え、多様なストレスを抱えているため、交感神経の働きが過剰になり、自律神経のバランスがくずれがちです。
ストレスが強くかかり、交感神経が優位な状態では、心拍数が上がって血管が収縮し、血圧が上昇します。
ひどく緊張したり、興奮したりすると、ドクンドクンと鼓動が聞こえるくらい心臓が脈打つことがあります。
これは、交感神経が優位となり、血圧や心拍数が上がった状態なのです。
このような状態では、私たちは、いわば戦闘状態にあるとさえいえます。
短時間なら問題はありませんが、この状態が長く続けば、体や血管に大きな負担がかかります。
血管の内壁が傷つけられ、その傷に血小板や赤血球が引っかかって、血管が詰まる元になる、血栓(血の塊)が作られるようになるのです。
肌と肌を触れ合おう!周囲も健康にしよう!
ストレスによって収縮した血管を広げるには、過剰になっている交感神経の働きを抑え、副交感神経の働きを高める必要があります。
そこで役立つのが、オキシトシンです。
オキシトシンが分泌されると、副交感神経が優位になり、血管を拡張して血圧を下げてくれるのです。
さらに、最近の研究では、オキシトシンが直接血管に作用して血圧を下げることも判明しています。
オキシトシンの受容体が全身の血管にあることがわかってきたのです。
オキシトシンが受容体と結合すると、NO(一酸化窒素)が作られ、それが血管を広げる働きをもたらすのです。
高血圧は、重大な心疾患を引き起こす誘因の一つとなりますが、ストレス自体も自律神経の乱れや血管の収縮を引き起こし、心臓に悪影響を及ぼします。
また、心理的ストレスを抱えていると、心筋梗塞などの心疾患にかかる確率が2倍になるともいわれています。
オキシトシンにはストレスを和らげる効果がありますから、その対策としても非常に重要な役割を持っているのです。
では、いったい、どのようにすれば、オキシトシンを分泌させることができるのでしょうか。
ポイントは二つあります。
一つは、五感に心地よい刺激を与えることです。
おいしい物を食べる、いい香りをかぐ、好きな音楽を聴く、美しい景色を見るといったことは、すべてオキシトシンを分泌させることにつながります。
もう一つは、人と交流することです。
仲のいい友人と会って、楽しい会話をするのもけっこう。
夫婦やパートナーの肌に触れるだけでもいいでしょう。
こうした人との関わりや触れあいによって、オキシトシンは分泌されます。
それどころか、誰かのことを思うだけでも、オキシトシンは分泌されるのです。
ただ、オキシトシンは、自然にどんどん出てくるわけではありません。
あえて意識をして、少しでも分泌を促す習慣を身につけることが大事です。
特に心がけてほしいのが、体への心地よい刺激です。
それは、パートナーとのスキンシップです。
抱き合う、キスをする、そしてセックスをすることなどが、オキシトシンの分泌を強く促すことがわかっています。
さらに驚くべき効果として、あなたがオキシトシンを分泌すると、周りにいる人たちにも同様の効果が発揮されるのです。
つまり、あなたがオキシトシンを分泌させて高血圧を解消すれば、家族や友人たちも健康で幸せになれるのです。
高血圧の予防・改善するためにも、日ごろから穏やかな精神状態を保ち、周囲の人たちと楽しく過ごしてください。
高橋 徳
統合医療クリニック徳院長。アメリカ・ウィスコンシン医科大学教授。アメリカで10年以上にわたりオキシトシンの研究を行い、論文を発表。2013年、郷里の岐阜県で統合医療クリニック「高橋医院」を開業。2016年、名古屋市内に分院「クリニック徳」を開業。近著に『オキシトシン健康法』(アスコム)がある。
●統合医療クリニック徳
http://clinic-toku.com/