不妊で訪れた男性の精子量が倍増!
私が患者さんに指導しているのは、「高タンパク」「高脂肪」「低糖質」の食事です。「MCTオイル」のほか、肉や卵、チーズをメインに、バターや生クリーム、魚介類、大豆製品など高タンパク・高脂肪の食べ物をたっぷり取り、ご飯やパン、麺類、果物やイモ類などの糖質の多い食べ物は控えます。糖質が少ない葉物野菜や、食物繊維が豊富なキノコ・海藻類も積極的に取ります。
この食事内容は、ケトン体を主力エネルギーとして使うケトン体質に導く「ケトン食」です。
ケトン食が特に有効なのは、妊娠糖尿病です。妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見、または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常のことです。全妊婦の約12%が罹患すると言われています。胎児に影響を与えるのはもちろんのこと、合併症が起こるリスクや将来的に糖尿病になる可能性も高まります。
妊娠中は、内服の糖尿病薬が使えません。そのため、食事療法で高血糖が改善しない場合は、インスリン注射を使用します。しかし、カロリー制限による食事療法は、摂取カロリーを大幅に減らすため挫折する人が多く、低カロリーでは糖質が多くなり、血糖値が上がりやすくなります。さらにインスリン注射は副作用で太りやすいのが難点です。
ところが、ケトン食に切り替え、体がケトン体質になると、糖をメインのエネルギーとして使わなくなるため、食事のたびに血糖値が乱高下することがなくなります。その結果、高血糖が改善していきます。
私のクリニックでは、妊娠糖尿病でもインスリン注射を使わずに血糖値を良好にコントロールし、元気な赤ちゃんを出産された妊婦さんが大勢いらっしゃいます。
また、MCTオイルは、男性不妊にも有効です。私は、精子の数が少ない精子減少症や、精子の運動能力が衰えた精子無力症の患者さんにも、MCTオイルなどのケトン食を指導しています。その結果、ケトン食を取り入れた男性の中には、精子の量が数倍になったり、精子の直進運動率(まっすぐに速く運動する良好な精子の割合)が増加したりして、自然妊娠に成功する例も出ています。
MTCオイルでケトン体質になると、たくさんの健康効果が得られる

ガン細胞への栄養を遮断できる
かつての医療では、「血中のケトン体値が上昇すると、体に害を及ぼすのでは」と言われていましたが、心配は無用です。
ケトン体は、心筋、骨格筋、脳、腎臓など、さまざまな臓器で日常的にエネルギー源として利用されており、人体に常に存在していて、まったく毒性はありません。妊婦や胎児、新生児のケトン体値は非常に高いことがわかっており、ケトン体は赤ちゃんが育つために不可欠な栄養源となっているのです。
それだけではありません。ケトン体は先に挙げた糖尿病に加え、ガンや認知症、うつなど、さまざまな病気や不調の症状改善や予防効果があると期待されています。
例えば、ガン細胞は正常な細胞と違って、エネルギー源はブドウ糖のみで、ケトン体をエネルギーにすることはできません。そのため、糖質制限を行いつつ、ケトン食を続けると、ガン細胞への栄養を遮断し、増殖を抑えることができるのです。
実際、ガン患者の食事療法にケトン食を実施し、転移ガンが消失したという症例も多数報告されています。
また、ケトン体は脳にとって重要なエネルギー源であり、ケトン食は脳神経の活性化に役立ちます。実はケトン食は、1920年代からすでにてんかんの治療に用いられており、現在は厚生労働省が認定した「保険適応食」となっています。そのためココナッツオイルやココナッツバターなどを活用したケトン食を、病院の栄養士が提供しています。
近年はMCTオイルの主成分である中鎖脂肪酸が、アルツハイマー病や認知症の改善に有効であることが判明し、治療への応用が始まっています。
ケトン体質になると、うつ状態の改善につながることもあります。うつ病の人にとって大敵は、糖質の取り過ぎに伴う血糖値の乱高下です。血糖値が急激に上昇したり、急に下がったりすると、眠気やだるさ、イライラ感に襲われ、精神が不安定になりやすいからです。ケトン体質になれば、血糖値が安定するので、精神的にも安定するのです。
血糖値の急上昇は、血管を傷つける最大の原因ですから、血糖値を上げないケトン食は、動脈硬化の予防にも有効です。
このように、ケトン体を主力エネルギー源に使えるケトン体質になることは、健康にとっていいことずくめ。MCTオイルを食生活に取り入れることはケトン体質に近づく早道なので、ダイエットしたい人に限らず、どんな人にもお勧めです。
ケトン体は糖尿病、ガンや認知症などの症状改善や予防効果があると期待される

解説者のプロフィール

むねた てつお
1947年、千葉県生まれ。65年、北海道大学理学部地質学鉱物学科入学。卒業後、地質調査などに従事したが、その後、医師を志し、73年、帝京大学医学部入学。小豆沢病院、立川相互病院勤務を経て、92年、千葉県市原市に宗田マタニティクリニックを開院。糖尿病妊娠、妊娠糖尿病の患者に対して糖質制限による治療を推進、絶大な効果を挙げている。近著『ケトン体でやせる!バターコーヒーダイエット』(河出書房新社)ほか、著書多数。
●宗田マタニティクリニック
http://muneta.org/