経験豊富な漢方医から教わった方法
耳鳴りやめまいに悩む人は、年々、増加しています。
私のクリニックにも、めまいや耳鳴りで悩む患者さんが全国からやってきます。
めまい、耳鳴りは、現代医学では治りにくいとされています。
しかし、その原因を突き止めれば、きちんと治療でき、治癒することも可能です。
また私は、クリニックでの治療のほかに、家庭でできるめまいと耳鳴りの改善策として、患者さんに耳たぶをひっぱるようにしてもむ「耳もみ」をお勧めしています。
私が耳もみを知ったのは、もう40年以上も前のことです。
きっかけは、中国の医科大学から、めまいの治療を勉強する学生たちに講義をしてほしいと依頼されて、1週間講義をしたことでした。
そのさい、学生たちと一緒に、経験豊富な中国の漢方医たちも受講していて、そのうちの一人が最後の日に、「よい講義をしてもらったお礼に」と言って教えてくれたのが、耳もみだったのです。
早速、帰国してから、めまいや耳鳴りのある患者さんたちに試してもらいました。
すると、なにかしらの効果を得られたという人が多かったことから、その後、テレビ番組の中で「めまいと耳鳴りを簡単に治せる方法」として紹介しました。
放映後、予想以上に大きな反響があり、「毎日5分ずつ耳をもんだら耳鳴りが小さくなった」とか、「めまいが改善してきた」といった声が数多く届いたのです。
めまいや耳鳴りの改善のために、私が患者さんに勧めている耳もみのやり方は、次のとおりです。
①親指と人さし指で耳たぶをつかむ。
②指の位置を少しずつずらしながら、耳たぶ全体を少しひっぱるようにしてもむ。
この耳もみは、いつやっても構いません。
5分程度でいいので、1日に3回くらいするといいでしょう。
めまいを改善する「耳もみ」のやり方

自律神経失調症や起立性調節障害の診断に有効なシェロングテスト

耳もみが耳鳴りやめまいを改善するのは、耳たぶとその周辺を刺激することで、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)が整い、内耳の血流がよくなるからだと考えられます。
めまいや耳鳴りのバックグラウンドには、しばしば自律神経失調症(自律神経の不調によって起こる症状)があります。
私のクリニックでは、めまいの患者さんには「シェロングテスト」という、自律神経の安定度を調べる検査を受けていただくのですが、そのうちの7割くらいの患者さんに、自律神経失調症や起立性調節障害が認められます。
自律神経が乱れて、全身の活動力を高める交感神経が過緊張になると、細い動脈がけいれんしやすくなり、内耳(上の図参照)の血流を妨げます。
めまいや耳鳴りは内耳に原因があることが多く、その根底に内耳の血流の悪さがあります。
内耳にある蝸牛の中には、音を脳に伝える有毛細胞というものがあり、内耳の細い動脈が栄養や酸素を送っています。
内耳の動脈の血流が悪くなると、有毛細胞に酸素が届かず、数の減少や機能の低下を招いてしまうのです。
その結果、内耳の働きが悪くなり、めまいや耳鳴りなどの症状が現れます。
また、内耳の動脈の外側には、網の目のように自律神経ネットワークが走っています。
東洋医学的な考え方でいうと、経絡と言い換えてもいいかもしれません。
耳を刺激すると、この自律神経ネットワークが刺激され、内耳の血管が拡張し、内耳の動脈の血流が豊富になります。
内耳の血流がよくなれば、有毛細胞に酸素が送られて、内耳の機能がよくなり、めまいや耳鳴りの改善が期待できます。
聞こえもよくなるでしょう。
耳もみは、耳の自律神経ネットワークを刺激する、最も簡単で安全な方法といえます。
もちろん、めまいや耳鳴りを起こさないためには、自律神経を乱れさせない生活を送ることが重要です。
具体的には、疲れをためない、ストレスをためない、寝不足にならないということです。
しかし、現代人にとって簡単なことではありません。
そこで、役立てていただきたいのが耳もみです。
簡単にできる予防・改善法ですので、毎日の生活に取り入れてください。
解説者のプロフィール

二木 隆
1965年、京都大学医学部卒業。国立京都病院耳鼻咽喉科医長等を経て、1990年、二木耳鼻咽喉科め
まいクリニック開設。日本めまい平衡学会顧問。著書に『めまい専門医が教える「めまい」をスッキリ消す本』(PHP研究所)などがある。