解説者のプロフィール

野原稔弘(のはら・としひろ)
熊本大学名誉教授。薬学博士。
九州大学大学院薬学研究科修士課程修了。徳島大学助教授を経て熊本大学薬学部教授、崇城大学薬学部教授。ナス属植物などの天然配糖体の生理機能が研究テーマ。2003年、成熟トマトからステロイド配糖体の結晶を抽出することに初めて成功し、世界的注目を浴びる。宮田記念学術論文賞や日本生薬学会学会賞の受賞歴がある。
世界的科学雑誌に掲載された新発見!「トマトサポニン(エスクレオサイドA)」とは
これまで、トマトの抗酸化作用やガン予防効果などは、すべてトマトの赤い色素であるリコピンによるものとされてきました。
ところが、実はトマトには、リコピンの4〜5倍も含まれる主成分があります。
それが、「トマトサポニン(エスクレオサイドA)」です。
サポニンとは、糖とほかのものが結合した化合物を指します。
2003年、私たちは、成熟した生のトマトから、トマトサポニンを取り出すことに、初めて成功しました。
調べていくうちに、この成分がリコピンとは別の作用で、大きな健康効果を生むことが判明したのです。
では、トマトサポニンとは、どんなもので、どのような働きをするのでしょうか。
未成熟な青いトマトに、トマチンという、ステロイドサポニンが含まれることは、以前から知られていました。
しかし、トマトが成熟すると、それは消失すると考えられていたのです。
ところが、私たちが抽出したトマトサポニンを調べたところ、ステロイドサポニンはトマトが成熟してからも、姿を変えて存在していたことが、明らかになりました。
そして、これを口から摂取すると、一部は腸で吸収され、さらに、肝臓でステロイドホルモンという別の物質に変化することが判明しました。
こうしてトマトサポニンが、ステロイドホルモンとして体内に作用した結果、動脈硬化症をはじめ、高血圧症や糖尿病、更年期障害、骨粗鬆症などを改善すると考えられるのです。
この一連の実験結果と考察は、世界的権威のある科学雑誌『テトラヘドロン』や『ナチュラルプロダクトス』にも、新発見として掲載されました。

ミニトマトや中玉トマトのほうがトマトサポニンの含有量が3~5倍ほど多い
体内でステロイドホルモンに変わる食物は、世界を探せば、トマト以外にもあります。
例えば、メキシコのヤム芋もその一つ。
「人類史上最速」といわれる陸上選手のウサイン・ボルトは、幼いころから、この芋を食べていたそうです。
そのため、カルシウムの吸収がよく、あのように強く、たくましくなったのでしょう。
しかし、日本では、こうした機能を持つ食物は、トマトのほかにはないのです。
そこで、主に出回っているトマトの品種を比較したところ、「桃太郎系」に代表される大きめのトマトより、ミニトマトや中玉トマトのほうが、トマトサポニンの含有量が3~5倍ほど多いことがわかりました。
ちなみに、市販のトマトの缶詰や、濃縮還元ジュースには、トマトサポニン(エスクレオサイドA)は、ほとんど含まれていません。
これは、缶を加熱して滅菌処理する過程で、一部、エスクレオサイドBという別成分に変化したり、分解されたりするためと考えられます。
トマトサポニンを効率よく吸収するには、上に示したように、ミニトマトを、ミキサーでジュース状にしたものを飲むのが最善です。
トマトサポニンはゼリー状の部分に多く含まれ、ここをドロドロにするのがポイントなのです。
そのまま食べるのでは、5分の1程度しか吸収されず、体外に排出されてしまいます。
1日の摂取量目安は、ミニトマトで1日4~5個、中玉トマトで1個です。
ミニトマトなら、15個程度が入った1パック分でジュースを作り、3日で飲み切るのがよいでしょう。
また、冷凍しても、それをレンジで解凍しても、トマトサポニンは変化しないので、まとめて作るのもいいと思います。
実験的に、私自身がこれを飲用したところ、高血圧が改善されました。
飲用前は最大血圧が160mmHg程度、高いときは180mmHgに跳ね上がることもありましたが、開始後、3ヵ月で130mmHgまで下がりました(基準値は140mmHg未満)。
周囲でも、血圧や血糖値が下がった人がおおぜいいます。
記事後半で、トマトサポニンの効果をさらにお見せしましょう。
動脈硬化を強力に防ぐ「ミニトマトジュース」の作り方

トマトサポニンは動脈硬化を予防する効果がある
お話ししてきたとおり、トマトサポニン(エスクレオサイドA)の採取に成功した私たちは、成分の作用について、研究を進めました。
まず、熊本大学医学教育部(部長・竹屋元裕教授)の藤原章雄助教らが明らかにしたのが、動脈硬化を予防する作用です。
動脈硬化とは、簡単にいうと、血管の内側にコブ状の塊ができ、血流が悪くなることです。
本来、血液にのって運ばれる酸素や栄養が、体内の各部位に到達しにくくなり、さらに流れが詰まると、脳梗塞や心筋梗塞の原因となります。
その発症の要因になるのが、血液中の白血球の一つであるマクロファージが、コレステロールを多量にため込んだ状態の泡沫細胞になる現象です。
そこで、藤原助教らは、天然植物の抽出エキスなど130種の物質について、泡沫細胞の形成に対する働きを調べたところ、トマトサポニンが、その形成を強力に抑制したのです。
この結果から、今度はマウスを使って、動物実験を行いました。
具体的には、人工的に高脂血症にしたマウスを、①何もしない群、②体重1㎏あたり1日50㎎のトマトサポニンを与える群、③同、100㎎のトマトサポニンを与える群、の三つに分け、検討を行いました。
3ヵ月後、いずれのグループとも体重の変化は見られませんでしたが、①群に比べると、②・③群の血中の総コレステロール値は、約25%低下。
③ 群の中性脂肪値に至っては、約45%も低下しました(下の表)。
また、マウスの大動脈の断面を、画像解析したところ、①群に比べ、②・③群は、動脈硬化部の面積が、著しく縮小していることも確認できました。

【症例】1日4~5個のミニトマトで血圧と血糖値が改善!
さて、マウスの実験結果を受け、トマトを凍結乾燥した粉末の開発を知人の会社に依頼したところ、製品化されました。
これを飲用して、血圧と血糖値が改善した症例をご紹介しましょう(被験者の検査値は、病院で計測したものです)。
血圧が高めだった62歳の女性Aさんは、最大血圧(基準値は140mmHg未満)が平均で158mmHgあったのが、飲用後2ヵ月ほどで119mmHgになりました(下の表・上)。
血圧降下剤などの薬は併用していません。
70歳の男性Bさんは、飲用開始直後の血糖値が169mg/dlでしたが、5ヵ月で、70mg/dlまで下がりました(基準値は110mg/dl未満)。
ヘモグロビンA1c(過去1~2ヵ月の血糖状態がわかる数値で、当時の基準値は5・8%未満)は、開始前の高いときで6・2%ありましたが、4・9%に下がりました(下の表・下)。
それぞれ、正常域内となったのです。
ちなみに、いずれの被験者も、1日のトマト粉末摂取量は3gで、粉末3g中のトマトサポニン含有量は、18mgです。
これをミニトマトに換算すると、4~5個分に相当します。
つまり、1日にミニトマト4~5個分の手作りジュースを飲用すれば、同様の効果が期待できるというわけです。

更年期障害や骨粗鬆症予防にも効果的
トマトサポニンの効果は、まだあります。
更年期障害の改善が、その一つです。
トマトサポニンの化学構造式は、一部のホルモンと、非常によく似ているため、同じような働きをすると考えられます。
実際に、学生の母親で更年期障害に悩むかたに試してもらったところ、「症状がとても軽く楽になった、もう手放せない」と、喜びの声が寄せられました。
また、女性ホルモンはカルシウムの吸収や骨の形成と密接なかかわりがあります。
そのため、トマトサポニンを積極的に摂取することは、骨粗鬆症の予防にも役立つと思われます。
まだ一般にはあまり知られていませんが、多くのすばらしい機能を持つトマトサポニン。
皆さんの健康維持・向上に、ぜひ役立ててください。