解説者のプロフィール

横田邦信(よこた・くにのぶ)
東京慈恵会医科大学客員教授。医学博士。
東京慈恵会医科大学・同大学大学院修了。研修医時代からマグネシウムを研究し、2007年に研究組織(MAG21研究会)を共同設立。多くの生活習慣病の発症にマグネシウム不足が深く関係しているという観点から、マグネシウムの啓発に力を注ぐ。著書に『マグネシウム健康読本』(現代書林)、『糖尿病ならすぐに「これを」食べなさい!』『糖尿病ならすぐに「これを」食べなさい! レシピ』(ともに主婦の友社)などがある。
●MAG21研究会
http://mag21.jp/
摂取量が足りていないことに日本人は気づいていない
マグネシウムは私たちが生きていくうえで必要不可欠な栄養素であり、体内では合成できないため、必ず食品から摂取しなければいけない「必須ミネラル」の1つです。16種類ある必須ミネラルの中でも、マグネシウムはカルシウムやカリウム、ナトリウムなどと同じく、1日の必要摂取量が100㎎以上の「主要ミネラル」に分類されます。
しかし、現代の日本人は、マグネシウム不足に陥っています。下のグラフに示すとおり、男女とも、いずれの年代層でも、実際のマグネシウム摂取量が基準を下回っています。
ちなみに、WHO(世界保健機関)の推奨量は、厚生労働省の摂取基準よりもさらに多いので、日本人のマグネシウム不足は、かなり深刻な状態にあるといえます。
同じ必須・主要ミネラルであるカルシウムに比べ、マグネシウムの知名度は高くありません。マグネシウムが健康にどんな重要な働きをしているのかが知られておらず、しかも、ほとんどの人が不足を自覚していないことが、大きな問題なのです。
私がマグネシウムの重要性に気づいたのは、日本に糖尿病が増えた理由を研究したことがきっかけです。
■日本人はマグネシウムの摂取量が足りていない

2015年の日本人のマグネシウム摂取量。厚生労働省の食事摂取基準量(推奨量)に、男女ともすべての年齢層で足りていない
糖尿病患者が増えている原因を調べていくと
糖尿病は、血糖値を下げるインスリンというホルモンの作用不足のため、血糖値が高い状態が慢性的に続く病気です。日本では、戦後、2型糖尿病(食事や運動など生活習慣が原因で起こるタイプの糖尿病)が急増し、現在、患者とその予備軍の人は約2000万人と推計されています。
■グラフA:糖尿病患者と予備軍は1960年代以降急増し続けている

以前はほとんど見られなかったが、糖尿病患者とその予備軍は、現在、2000万人まで増えた
従来は、エネルギー摂取量の増加や脂肪の摂りすぎ、肥満、運動不足が糖尿病の主な原因とされてきました。しかし、日本人の平均エネルギー摂取量は、1970年代前半をピークに減少に転じ、脂肪摂取量も80年代以降はほぼ横ばいです(グラフB)。にもかかわらず、糖尿病患者は1965年頃から一貫して増え続けているのです(グラフA)。また、肥満ではないのに糖尿病を発症する人も少なくありません。
■グラフB:エネルギー(カロリー)は減少傾向、脂肪摂取量は横ばい状態

糖尿病の原因は「カロリーや脂肪の摂りすぎ」とされてきたが、データが合致しない
こうした点から、私は「何かほかに見落としている原因があるのではないか?」と考え、糖尿病が増加し始めた1960年代以降のあらゆるデータを見直しました。その結果、興味深い事実を見つけました。それは日本人の主食の中身の変化です。
戦後しばらくは、日本人の主食は玄米に大麦やあわ・ひえなどの雑穀を加えて炊く「麦ご飯」や「雑穀ご飯」が一般的でした。大麦や雑穀には食物繊維(穀物繊維)が豊富で、しかもマグネシウムの宝庫です。しかし、1960年頃から急速に白米が主食の主流になっていきます。
大麦や雑穀などの穀物摂取量が激減した時期と、糖尿病が増え始めた時期は、みごとに一致しています(グラフC)。このことから、糖尿病患者が増加した原因にマグネシウムが深く関わっているのではないかと考えたのです。
■グラフC:調べていくと興味深いデータが浮かび上がった

大麦と雑穀を食べなくなった時期と、糖尿病患者が増え始めた時期が一致する
白米・食パン・加工食品が増えて「新型栄養失調」に
同じ主食でも、ご飯やパンは、種類によってマグネシウム含有量が大きく違います。マグネシウムは、穀物の皮や胚芽に多く含まれています。精白した白米や、食パンなどの穀物を精製して作る主食が主体になれば、当然、マグネシウムの摂取量もガクンと減ります。
マグネシウムは、穀類以外の食材にも幅広く含まれていますが、精製・加工されるほど含有量が減ります。加工食品やファストフード中心の食生活では、マグネシウムをじゅうぶんに摂るのは難しいのです。
一方、昔ながらの日本人の食事には、マグネシウムの多い食材が豊富に使われてきました。基本調味料である塩についても、昔はマグネシウムをはじめ海水に含まれるミネラルが豊富なあら塩が使われていましたが、塩田が廃止されてからは、ほぼナトリウムだけの精製塩が主流になってマグネシウムの摂取量が減ってしまいました。
食生活が欧米化し、加工食品の利用が増えた現代の日本人の食生活は、カロリーは満たされていても、マグネシウムが足りない「新型栄養失調」状態にあるのです。
■白米と食パンでは、マグネシウムの摂取量が全然足りていなかった

3食が玄米の場合、235.2mgであるのに対して、白米の場合は33.6mg、食パンは60mgだ
糖尿病・メタボの予防・改善効果に世界が注目
マグネシウムは、骨と歯の主要な構成成分の1つであり、骨の柔軟性や弾力性を高める重要な役割を果たしています。神経や筋肉の働きにも関与し、マグネシウムが不足すると、筋肉の痙攣やこむら返りが起きやすくなります。マグネシウムはまた、血管を収縮させるカルシウムの働きをコントロールし、血管を拡張させ、血圧を下げる働きをします。
さらに、マグネシウムは、体内の350種類以上もの酵素(体内で化学反応を引き起こす触媒となるタンパク質)を活性化します。細胞内でエネルギーを生み出すときにも、マグネシウムが欠かせません。
マグネシウムは、糖や脂肪の代謝にも深く関わっています。マグネシウムが不足すると、インスリンの効きが悪い状態を引き起こし、インスリン分泌が悪くなることも加わり、血液中のブドウ糖が細胞内に取り込まれにくくなります。中性脂肪を分解する酵素の働きも悪くなり、その結果、糖尿病や脂質異常症、肥満をきたしやすくなるのです。
逆に、マグネシウムを補うことで、糖尿病の改善に効果があることは、臨床研究でも実証されています。
私たちは、軽症の糖尿病患者さん9人に、天然の濃縮マグネシウム(MAG21)を水に溶かした飲み物を1カ月間飲んでもらいました。すると、インスリンの効きが悪い状態が改善され、血圧や中性脂肪も改善されました(下のグラフ参照)。
海外の研究では「マグネシウムをじゅうぶんに摂取すると、糖尿病の発症リスクが最大47%も減る」「マグネシウムの摂取量が多い人ではメタボリックシンドロームの発症リスクが31%低い」などの報告もあります。糖尿病やメタボの予防・改善に、マグネシウムは世界的に注目されているのです。
■軽症の糖尿病が1日300㎎のマグネシウム水で改善した

横田先生による研究。軽症の糖尿病患者9名に、1日1本300mlに300mlのマグネシウムが含まれている飲み物(マグネシウム水)を1カ月飲んでもらったところ、インスリン抵抗性、血圧、中性脂肪の数値がよくなった
マグネシウムが多い食材は 「そばのひ孫と孫わ優しい子かい?納得!」
現代の日本人は、平均1日あたりおよそ130㎎もマグネシウムが不足しているので、毎日の食生活で意識してマグネシウムを摂取していただきたいと思います。しかし、多くの人は、どんな食材にマグネシウムが多いのか、ピンとこないでしょう。
そこで私は「そばのひ孫と孫わ優しい子かい? 納得!」という標語を考案しました。これは、マグネシウムが豊富な食材の頭文字をつなげたもの。下に、代表的な食材とマグネシウム含有量を紹介します。最近の食事内容を振り返り、これらを食べたかチェックしてみてください。おそらく大半の人は、あまり食べていないのではないでしょうか。
マグネシウムが豊富な食材の代表格は、玄米や雑穀、海藻類、きのこ、魚、豆や大豆食品、緑色野菜・いも類など。つまり、「昔の日本食」をお手本に、伝統的な日本の和の食材を意識して食べることが、マグネシウム不足の解消につながるのです。





マグネシウムの多い食品に少しずつ替えるだけでいい
いくらマグネシウムの量が多くても、作るのがめんどうだったり、食べるのがつらかったりしては長続きしません。たいせつなのは、マグネシウムが豊富な食材を無理なくバランスよく取り入れていくことです。
例えば、普段食べている白米を玄米に替えるだけで、マグネシウム含有量は3食で200㎎増えます。
麦や雑穀を混ぜた五穀ご飯にしたり、パンは白いものではなく全粒粉のパンやライ麦パンを選ぶ、うどんよりもそばを選ぶ、といった工夫で、マグネシウム摂取量を増やすことができます。
のりやゴマを料理にかける、おかずの一品に冷奴や納豆を加えるなどの「チョイ足し」も有効です。
飲み物では、抹茶のほか、コーヒーやココア、野菜ジュース、硬水のミネラルウォーターにもマグネシウムが多く含まれています。できるところから少しずつ、このような食べ物を積極的に取り入れましょう。
天然のマグネシウム濃縮液で摂取することもできる
毎日の食事からマグネシウムを摂取するのが理想ですが、外食が続いたりしてマグネシウムが不足するときは、天然のマグネシウム濃縮液を利用するのもいい方法です。
にがりは、海水から塩を作る際の副産物であり、古くから豆腐の凝固剤として使われてきました。にがりには、海水由来のマグネシウムが多く含まれていますが、一般に塩分(ナトリウム)が多く含まれます。
ナトリウムを摂りすぎるとマグネシウムが尿中に排泄され、マグネシウムに対するカルシウムの摂取割合が高くなると、動脈硬化や高血圧、骨粗鬆症のリスクが高まります。
一方、天然のマグネシウム濃縮液は、塩分とカルシウムはほとんど含まれず、マグネシウムだけが極めて豊富に含まれ、にがりとは製造方法もまったく異なるものです。
天然のマグネシウム濃縮液は、1日に10〜20滴程度でじゅうぶんマグネシウムの補給ができます。飲み物にこまめに数滴加えて使うのが基本ですが、熱に強いので料理にも使えます。ご飯を炊くときに数滴加えるとふっくらして、おいしさも増します。ビールに数滴たらすと苦味が取れてコクが増し、おいしくなります。
2004年に、「にがりはダイエットにいい」とブームになりましたが、間違った使い方をする人が続出したため国が警鐘を鳴らし、急速にブームが沈静化しました。
しかし、天然のマグネシウム濃縮液を適切に用いれば、食事で摂った脂肪の吸収が減るので、確かにダイエット効果はあります。正しく理解して、上手に活用していただきたいと思います。

環境汚染のまったくない西オーストラリアの塩水湖(デボラ湖)の水を原料にした天然のマグネシウム濃縮液の製品も市販されている
マグネシウムを使えば洗濯も洗剤なしでできる
医薬品としては、マグネシウムは便秘薬や胃酸を抑える胃薬、不整脈、片頭痛、こむら返り、切迫流産の治療などに用いられています。
工業分野では、航空機や自動車の車体など、多くの用途にマグネシウム合金が使われており、近年は、マグネシウム電池も開発され、クリーンな燃料としての可能性にも注目が集まっています。
身近な活用例としては、洗剤の代わりになること。水にマグネシウムを入れて洗濯をすると水素が発生して、アルカリイオン水が生成され、これにより洗濯物の油脂汚れが落ちるとともに、殺菌作用でニオイの原因菌の繁殖も防ぎます。
日本で開発された洗濯用のマグネシウム製品は、フランスのエコフェアで賞を受けるなど、世界的にも評価されています。洗浄力は洗剤と同等で、ニオイ成分の分解力は洗剤よりも高く、排水パイプの汚れまで落ち、水質を汚染せず地球環境にやさしい、といいことずくめです。
マグネシウムは、漢字で「鎂」と書きます。白く美しい金属で、私たちの体内では、肥満防止やアンチエイジング、イライラの解消など、美と健康に欠かせないミネラルです。
地球上の海には、1800兆トンものマグネシウムが存在し、ほぼ無尽蔵な天然資源です。
また、植物の葉緑素(クロロフィルa)の化学式を見てみると、その中心には、マグネシムが鎮座しています。
マグネシウムのすばらしさを、ひとりでも多くのかたに、ぜひ知っていただきたいと思います。

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